東京国立博物館で2026年9月29日から、特別展「歌川広重 江戸のベストアングル」が始まります。
広重の展覧会は各地で開かれていますが、今回は少し性格が違います。東海道五拾三次・木曽海道六拾九次・名所江戸百景の三大シリーズを、いずれも全点公開するという構成です。しかも会期を3期に分け、期ごとに展示作品を全部入れ替えます。
つまり、1回行っただけでは三大シリーズのうち1つしか見られません。この記事では、3期がそれぞれ何を出すのか、どの期に行くべきか、チケットをどう買うのが得かを先に整理します。そのあとで各期の注目作品を見ていきます。
この展覧会の基本情報
会期は2026年9月29日(火)から12月20日(日)まで。会場は東京国立博物館の本館特別5室・特別4室(本館A室)です。主催は東京国立博物館、NHKほかが特別協力に入っています。
休館日は月曜日ですが、10月12日・11月2日・11月23日は開館します。加えて10月13日・11月24日・12月15日が休館です。
観覧料は前売の一般が1,300円、当日の一般が1,500円。大学生は当日500円で、高校生以下は無料です。日時指定予約は不要で、会期中はいつ行っても入れます。
本展のチケットがあれば、同じ日にかぎり総合文化展(東博の常設展にあたるもの)もあわせて観覧できます。
なぜ「内山晋コレクション受贈記念」なのか
展覧会の正式名称には「内山晋コレクション受贈記念」が付いています。
内山晋(1893〜1980)は浮世絵の収集家で、その旧蔵品1,025点が東京国立博物館に寄贈されました。今回はその受贈を記念する展覧会です。
東博は日本有数の浮世絵コレクションを持っていますが、広重だけでこれだけの規模の展覧会を組むのは今回が初めてです。三大シリーズを全点そろえられるのは、この受贈があってのことです。
3期で全点入れ替え。いつ行くかで見られるものが変わる
本展でいちばん大事なのがここです。会期は3期に分かれ、期ごとに展示作品が全部入れ替わります。
1期|9月29日〜10月25日|東海道五拾三次と江戸名所
保永堂版「東海道五拾三次」の全点と、江戸の名所を描いた作品が並びます。《日本橋 朝之景》《箱根 湖水図》《庄野 白雨》といった代表作はこの期です。広重の名前を有名にしたシリーズなので、1つだけ選ぶならここになります。
2期|10月27日〜11月23日|木曽海道六拾九次と諸国名所・花鳥画
中山道を描いた「木曽海道六拾九次」に加えて、諸国の名所絵と花鳥画が出ます。東海道ほど知られていませんが、雪や夜の場面が多く、広重の風景画としての幅が見えるのはむしろこちらです。
3期|11月25日〜12月20日|名所江戸百景
晩年の代表作「名所江戸百景」の全点。このシリーズは百景と言いながら実際には120点が刊行されました。目録1点と、広重の死後に二代広重が描いた1点を含みます。
《大はしあたけの夕立》《亀戸梅屋舗》など、ゴッホが模写したことで知られる作品もこの期です。
どの期に行くべきか
広重を初めてまとめて見るなら1期です。東海道五拾三次は構図も物語性も分かりやすく、他の2期を見るときの基準になります。
すでに東海道を見たことがあるなら3期を勧めます。名所江戸百景は縦長の画面を使った大胆な構図が多く、東海道とは別の面白さがあります。
2期は通好みです。ただし花鳥画が入るのはこの期だけなので、広重を風景画家としてだけ見ていた人には発見があります。
チケットは前売が9月28日まで
前売券の販売は2026年9月28日で終了します。当日券より200円安いので、行くと決めているなら開幕前に買っておくほうが得です。
3期すべてを見るつもりなら、3枚セット券のほうが計算が合います。当日券を3枚買うと4,500円、セット券なら3,600円で、900円の差になります。
セット券は1人で3回使っても、3人で1回ずつ使っても構いません。家族や友人と行く場合にも使えます。
1期の注目作品|東海道五拾三次
保永堂版「東海道五拾三次」は1833年頃から刊行された55点のシリーズです。日本橋を起点に、東海道の宿場を順に描いています。
《日本橋 朝之景》|旅の始まり

作品データ:東海道五拾三次之内 日本橋 朝之景/1833〜36年頃/木版画(大判錦絵)/メトロポリタン美術館ほか
シリーズの1枚目です。夜明けの日本橋を、大名行列が渡り始めるところを描いています。橋のたもとには魚を担いだ棒手振りがいて、江戸の朝が動き出す時間だと分かります。
画面の手前に木戸を大きく置き、その奥に橋と行列を見せる構図です。見る人を江戸の内側に立たせて、そこから旅に出ていく視点になっています。
《箱根 湖水図》|東海道最大の難所

作品データ:東海道五拾三次之内 箱根 湖水図/1833〜36年頃/木版画(大判錦絵)/メトロポリタン美術館ほか
箱根の山を、実際の地形よりはるかに険しく誇張して描いています。斜面を色の面で塗り分け、岩肌がモザイクのように見えます。
画面左下に芦ノ湖、遠くに富士。その間を大名行列が豆粒のような大きさで進んでいきます。人を小さく描くことで山の大きさが出る、という単純な仕掛けですが効きます。
《庄野 白雨》|夕立に追われる坂道

作品データ:東海道五拾三次之内 庄野 白雨/1833〜36年頃/木版画(大判錦絵)/メトロポリタン美術館ほか
シリーズの中でもっとも有名な1点です。急な坂道を、突然の夕立に追われて人々が駆け下りていきます。
雨は細い線を斜めに重ねて表現し、背景の竹林は濃淡の違う2つの灰色を重ねて風にあおられる様子を出しています。輪郭線をほとんど使わず、色の面だけで嵐を描いている点が異例です。
駕籠を担ぐ2人と傘を差す2人が逆方向へすれ違い、坂の斜めの線と交差します。画面のどこにも水平線がありません。
2期の注目作品|木曽海道六拾九次
「木曽海道六拾九次」は中山道の宿場を描いたシリーズで、渓斎英泉との合作です。全70点のうち、広重が担当したのは46点ほどとされています。
東海道が海沿いの明るい道だったのに対し、中山道は山の中を抜けていきます。雪・夜・霧といった、視界がきかない場面が多いのが特徴です。
《洗馬》|月と柳と、川を下る舟

作品データ:木曽海道六拾九次之内 洗馬/1835〜38年頃/木版画(大判錦絵)/メトロポリタン美術館ほか
夕暮れの奈良井川を、柴を積んだ舟が下っていきます。背後に月が昇り、風にあおられた柳が画面を斜めに横切ります。
人物は舟の上の2人だけ。宿場を描くシリーズでありながら、宿場の建物も旅人の群れも出てきません。
《大井》|雪に埋もれた宿場

作品データ:木曽海道六拾九次之内 大井/1835〜38年頃/木版画(大判錦絵)/メトロポリタン美術館ほか
降りしきる雪の中を、馬を引いた一行が進みます。地面も屋根も松の枝もすべて白で埋まり、画面の大半が塗り残しの白です。
雪は版木を彫り残すのではなく、白い絵具を刷毛で散らして表現しています。近くで見ると粒の大きさが不揃いで、そこに手の跡が残っています。
3期の注目作品|名所江戸百景
「名所江戸百景」は1856年から刊行された、広重最後の大シリーズです。江戸の名所を縦長の画面で描いています。
東海道が横長で旅の流れを見せたのに対し、こちらは縦長です。手前のものを極端に大きく置き、その隙間から遠景を覗かせる構図が繰り返し使われます。
《大はしあたけの夕立》|ゴッホが模写した1枚

作品データ:名所江戸百景 大はしあたけの夕立/1857年/木版画(大判錦絵)/メトロポリタン美術館ほか
隅田川に架かる新大橋を、突然の夕立が襲います。橋の上の人々は傘や筵で頭をかばい、川面には筏が1つ流れていきます。
雨を細い直線で画面全体に降らせ、その上から橋を斜めに走らせています。空は上が濃く下が淡いぼかしで、雲の形は描かれていません。
ゴッホがこの絵を油彩で模写しています。1887年のことで、パリで浮世絵を集めていた時期にあたります。
《亀戸梅屋舗》|手前の枝が画面を割る

作品データ:名所江戸百景 亀戸梅屋舗/1857年/木版画(大判錦絵)/チェスター・ビーティー図書館ほか
梅の名所だった亀戸を描いています。手前の梅の幹が画面のほぼ中央を縦に貫き、その向こう側に梅見の人々が小さく見えます。
主役であるはずの風景を、手前の枝がほとんど隠しています。見えないものを想像させることで奥行きを出すやり方です。
この絵もゴッホが模写しました。ゴッホは背景を赤で塗りつぶし、周囲に漢字を書き足しています。
《浅草田甫酉の町詣》|窓辺の猫

作品データ:名所江戸百景 浅草田甫酉の町詣/1857年/木版画(大判錦絵)/ロサンゼルス・カウンティ美術館ほか
遊郭の一室から外を見た構図です。障子窓の手前に白い猫が座り、その向こうに田んぼと、酉の市へ向かう人の列が見えます。
部屋の中には人がいません。畳の上に手ぬぐいと簪が置かれ、直前まで誰かがここにいたことだけが残されています。名所絵でありながら、名所そのものは窓の外の小さな帯にすぎません。
《高輪うしまち》|牛車の車輪ごしの海

作品データ:名所江戸百景 高輪うしまち/1857年/木版画(大判錦絵)/アメリカ議会図書館ほか
画面の左半分を、巨大な牛車の車輪が占めます。その隙間から江戸湾と帆船が見えます。
手前の地面には西瓜の皮と草履が転がり、犬が2匹うろついています。名所の風景というより、道端で目に入るものをそのまま並べた絵です。
会場と、行く前に知っておくこと
会場の東京国立博物館は上野公園の奥にあります。JR上野公園口から徒歩10分ほどです。

会場は本館の特別5室・特別4室です。総合文化展も同じチケットで見られますが、東博は建物が多く、全部回ると半日では足りません。広重だけを目当てにするなら1時間から1時間半を見ておけば十分です。
浮世絵は小さい作品です。近づいて見る前提で混雑するので、開館直後か閉館1時間前が空いています。
図録と、予習に使える本
三大シリーズを1回の来場で全部は見られないので、手元に残る図録があると効きます。
『歌川広重 江戸のベストアングル 内山晋コレクション』東京国立博物館 監修(東京美術)
2026年9月30日発売予定/320ページ/ISBN 9784808713683
歌川広重 江戸のベストアングル 内山晋コレクション
[東京国立博物館 監修]
価格・在庫状況はリンク先でご確認ください
『もっと知りたい歌川広重 改訂版』内藤正人(東京美術)
2024年2月発売/96ページ/ISBN 9784808712983
もっと知りたい歌川広重 改訂版
[内藤正人]
価格・在庫状況はリンク先でご確認ください
よくある質問
日時指定の予約は必要ですか?
不要です。会期中であれば、チケットを持っていつ行っても入れます。
1回のチケットで三大シリーズを全部見られますか?
見られません。3期で展示が全点入れ替わるため、東海道五拾三次・木曽海道六拾九次・名所江戸百景をすべて見るには3回入る必要があります。
前売券はいつまで買えますか?
2026年9月28日までです。それ以降は当日券(一般1,500円)になります。
高校生以下は無料ですか?
無料です。大学生は当日500円です。
本展のチケットで常設展も見られますか?
同じ日にかぎり、総合文化展もあわせて観覧できます。
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まとめ
東博初の本格的な広重展で、三大シリーズがそれぞれ全点出ます。ただし3期で全入れ替えなので、1回の来場で見られるのは1シリーズだけです。
初めてなら1期の東海道五拾三次、すでに東海道を見ているなら3期の名所江戸百景。3期とも行くなら3枚セット券が900円安くなります。
前売の締切は9月28日です。
