2026年7月25日から、東京・上野の東京都美術館で「東京都美術館開館100周年記念 大英博物館日本美術コレクション 百花繚乱~海を越えた江戸絵画」が開催されています。大英博物館が所蔵する約4万点の日本美術コレクションから、江戸時代の絵画や浮世絵の名品を厳選して紹介する展覧会です。
登場するのは、葛飾北斎、喜多川歌麿、東洲斎写楽、歌川広重といった、日本美術を代表するスターたち。なかでも僕が注目しているのが、イギリスから初めて里帰りする歌麿の肉筆画《文読む遊女》と、海を越えて離ればなれになっていた襖絵の再会です。
「浮世絵は好きだけれど、何を見ればいいのかわからない」という人にも、大英博物館の日本美術コレクションをまとめて見られる絶好の機会だと思います。この記事では、「百花繚乱」展の見どころや注目作品、チケット、会期・アクセスまでまとめて紹介します。結論から言うと、江戸絵画に少しでも興味があるなら、会期のうちに一度は足を運ぶ価値がある展覧会です。
海を渡った江戸絵画を、会期のうちに
大英博物館の名品がまとめて来日する貴重な機会です。閉幕が近づくほど混雑しやすいので、行くと決めたら早めの日程で。チケットはアソビューでオンライン購入できます。
「大英博物館日本美術コレクション 百花繚乱」とは?
大英博物館と聞くと、ロゼッタ・ストーンや古代エジプトを思い浮かべる人が多いかもしれません。ただ、同館は世界有数の日本美術コレクションを持つ美術館でもあります。その数はおよそ4万点。浮世絵だけでなく、屏風、掛軸、絵巻など、江戸時代を中心とする幅広い作品がロンドンに収蔵されています。
今回の「百花繚乱」展では、その膨大なコレクションから選ばれた作品が東京にやってきます。単に「有名な浮世絵を集めた展覧会」ではありません。作品がどのように日本から海を渡り、大英博物館のコレクションになったのか。日本美術に魅せられた海外の収集家や研究者たちの存在にもスポットが当てられています。
日本で生まれた作品を、いったん「海外から見た日本美術」という視点で見直せるところも、この展覧会の見どころだと思います。展覧会は東京都美術館のあと、大阪中之島美術館へ巡回する予定です(大阪展は2026年10月31日~2027年1月31日を予定)。

「百花繚乱」展の見どころ
1.歌麿の肉筆画《文読む遊女》1804〜1806年頃がイギリスから初里帰り
まず見逃せないのが、喜多川歌麿《文読む遊女》です。歌麿といえば、美人画を描いた浮世絵師として知られています。一般に「浮世絵」というと木版画を思い浮かべますが、《文読む遊女》は版画ではなく、歌麿自身が筆で描いた肉筆画。版を使って複数刷れる木版画とは違い、肉筆画は基本的に一点ものです。
そのため、歌麿の「絵そのもの」を見るという意味でも貴重な作品です。しかも今回、イギリスから日本へ初めて里帰りします。海外のコレクションとして知られてきた歌麿の肉筆画を、日本で直接見られる機会です。今回の展覧会では、歌麿だけでなく北斎や河鍋暁斎らの肉筆画も合わせて展示されるので、「版画としての浮世絵」とはまた違う一面を楽しめます。
作品データ:喜多川歌麿《文読む遊女》/1804〜1806年頃/肉筆画/大英博物館蔵
2.海を越えて離れていた襖絵が約150年ぶりに再会
この展覧会のもうひとつの大きな見どころが、襖絵の再会です。もともとひとつの空間を飾っていたと考えられる襖絵が、時代を経て日本・イギリス・アメリカに分かれて所蔵されていました。青森・宮越家、大英博物館、シアトル美術館。今回、それらが東京に集まり、約150年ぶりに一つの空間で再会します。
美術館で一枚の絵を見るのとは、少し意味が違います。襖絵は本来、建築空間の一部です。左右に連続して配置されることで、花や鳥、季節の移ろいなどがひとつの大きな空間として完成します。ばらばらになった作品を個別に見るだけではわからなかった本来の姿を想像できる。今回の展覧会を象徴する展示のひとつだと思います。
3.円山応挙《虎の子渡し図屛風》1781〜1782年
浮世絵以外にも注目作品があります。その代表が、円山応挙《虎の子渡し図屛風》です。応挙は18世紀の京都で活躍した、日本美術史を代表する画家のひとり。実物をよく観察し、それを絵に反映させる「写生」を重視したことで知られています。
とはいえ、この作品のテーマは虎。当時の日本に野生の虎はいません。そこで日本の画家たちは、中国絵画の虎や、輸入された毛皮、身近な猫などを参考に虎を描きました。本物を見ずに、想像で描かれた虎という視点で見ると、応挙の工夫がぐっと立ち上がってきます。写生を大切にした画家が、見たことのない動物にどう向き合ったのか。そこがこの屛風の読みどころです。
作品データ:円山応挙《虎の子渡し図屛風》/1781〜1782年/大英博物館蔵

4.北斎の完成作品ではなく「版下絵」が見られる
葛飾北斎も登場します。注目したいのが、《万物絵本大全》の版下絵。完成した浮世絵ではなく、木版を制作するためのもとになる下絵です。浮世絵は一般的に、絵師が絵を描き、彫師が版木を彫り、摺師が紙に摺る、という分業で制作されます。彫師(ほりし)は版木を彫る職人、摺師(すりし)は絵の具をのせて紙に刷る職人のことです。
私たちが普段目にするのは、最後に完成した版画です。でも版下絵を見ると、その前段階にある北斎自身の線をより直接的に感じられます。「北斎がどう描いたのか」に関心がある人には、完成した《富嶽三十六景》とはまた違う手ごたえがあります。北斎の代表作については、葛飾北斎とは?代表作・特徴・富嶽三十六景の見どころでも詳しく紹介しています。
作品データ:葛飾北斎《万物絵本大全》版下絵/1820〜1849年頃/大英博物館蔵

5.春信・歌麿・写楽・北斎・広重ら「8大浮世絵師」が集結
今回の展覧会では、江戸時代を代表する8人の浮世絵師に注目した展示も行われます。名前が挙がっているのは、鈴木春信、鳥居清長、喜多川歌麿、東洲斎写楽、初代歌川豊国、葛飾北斎、歌川広重、歌川国芳の8人です。教科書で見た名前がずらりと並びます。
歌麿なら美人画。写楽なら、役者の表情を大胆にとらえた役者絵。北斎なら、富士山をはじめとする風景や驚異的な描写力。広重なら、旅情あふれる風景画。同じ「浮世絵」でも、絵師によって得意分野も表現も大きく違います。一人ずつ作品を追うのもいいですが、同じ展覧会の中で見比べられるのが今回の魅力だと思います。
ここでは、歌麿と北斎(上で紹介したとおり)以外の6人の作風を、代表的な作品でざっと見比べておきます。時代や得意分野の違いを頭に入れておくと、会場での見え方がぐっと変わります。





「百花繚乱」展のチケット・料金
「大英博物館日本美術コレクション 百花繚乱」の観覧料(当日)は、一般2,300円です。高校生以下は無料なので、家族で行きやすいのもうれしいところ。区分ごとの料金は次のとおりです。
| 区分 | 当日料金 |
|---|---|
| 一般 | 2,300円 |
| 大学生・専門学校生 | 1,300円 |
| 65歳以上 | 1,600円 |
| 高校生以下 | 無料 |
チケットはオンラインでも購入できます。会期が進むと、土日祝は入場までに待つこともあります。日時指定やオンライン購入を使っておくと、当日に窓口を探す手間を減らせます。開幕直後より、混みはじめる前の平日や、後述する金曜夜の時間帯を狙うのがおすすめです。
「百花繚乱」展のチケットをアソビューで
会期は2026年10月18日(日)まで。土日祝の昼前後は混みやすいので、日時指定のあるオンライン購入で当日の待ち時間を減らしておくと安心です。当日券のほか、最新の販売状況はリンク先でご確認ください。
大英博物館はなぜこれほど日本美術を持っている?
展示を見ながら、ひとつ疑問がわくかもしれません。「なぜロンドンの大英博物館に、こんなに日本美術があるのか」。背景にあるのが、19世紀後半にヨーロッパで起きたジャポニスムです。ジャポニスムとは、開国後の日本から渡った美術・工芸が、西洋の芸術や生活文化に大きな影響を与えた現象を指します。
日本が開国すると、浮世絵や工芸品が大量に海外へ渡るようになります。それまで西洋の人々がほとんど知らなかった日本の大胆な構図や色彩は、多くの芸術家や収集家を魅了しました。ゴッホやモネが浮世絵から強い影響を受けたことはよく知られています。北斎《神奈川沖浪裏》の波の表現も、海外で大きな衝撃を与えた一枚です(北斎《神奈川沖浪裏》徹底解説)。
同時に、日本美術を専門的に収集・研究する人々も現れました。その一人が、イギリス人外科医のウィリアム・アンダーソンです。彼が集めた日本・中国の絵画コレクションは、のちに大英博物館へと受け継がれ、同館の日本美術コレクションの土台のひとつになりました。つまり「百花繚乱」展は、江戸絵画を見るだけでなく、日本美術が世界でどう評価され、収集されてきたのかを見る展覧会でもあります。
浮世絵初心者でも楽しめる?
むしろ、浮世絵をあまり知らない人にもおすすめできる展覧会だと思います。理由は、歌麿・写楽・北斎・広重といった有名絵師を一度に見比べられるから。「歌麿は美人画の人なんだ」「写楽は顔の表情がかなり大胆だな」「北斎と広重では風景の見せ方が違う」といったことが、作品を並べて見るうちに自然にわかってきます。

浮世絵の歴史を最初から勉強してから行く必要はありません。まず作品を見て「この人の絵が好きだな」と思う絵師を見つける。そこから調べてみるのも、美術の楽しみ方のひとつです。屏風や掛軸、絵巻も出品されるので、「浮世絵はそこまで詳しくない」という人でも、江戸の絵画を幅広く味わえます。
もっと楽しむための書籍
展覧会の前後に一冊読んでおくと、作品の背景がぐっと立体的になります。浮世絵の基礎から入りたい人向けの入門書を選びました。
会期・開館時間・会場
開催概要は次のとおりです。
| 展覧会名 | 東京都美術館開館100周年記念 大英博物館日本美術コレクション 百花繚乱~海を越えた江戸絵画 |
| 会期 | 2026年7月25日(土)~10月18日(日) |
| 会場 | 東京都美術館 企画展示室 |
| 開室時間 | 9:30~17:30(金曜日は20:00まで)※入室は閉室の30分前まで |
| 休室日 | 月曜日、10月13日(火)※ただし8月10日(月)、9月21日(月・祝)、10月12日(月・祝)は開室 |

東京都美術館へのアクセス
東京都美術館は、東京・上野公園の中にあります。住所は東京都台東区上野公園8-36。最寄りからのルートは次のとおりです。
- JR上野駅「公園改札」から徒歩約7分
- 東京メトロ銀座線・日比谷線 上野駅「7番出口」から徒歩約10分
- 京成上野駅から徒歩約10分
東京都美術館には来館者用の駐車場がないため、基本的には電車で行くのがおすすめです。上野公園内には東京国立博物館や国立西洋美術館もあるので、時間があれば合わせて回るのもいいと思います。
混雑を避けるなら金曜日の夕方も狙い目
人気展の場合、土日祝日の昼前後は混雑しやすくなります。今回の展覧会は金曜日のみ20時まで開室しています。仕事帰りなどに行ける人なら、金曜の夕方以降も選択肢に入れてみてください。ただし、閉幕が近づくと曜日を問わず混みやすくなります。「絶対に見たい」という人は、10月まで待たずに早めに訪れるのが安心です。
こんな人におすすめ
- 葛飾北斎や歌川広重が好き
- 浮世絵に興味がある
- 喜多川歌麿や東洲斎写楽を実物で見てみたい
- 江戸時代の日本美術をまとめて見たい
- 大英博物館のコレクションに興味がある
- ジャポニスムや西洋美術との関係に興味がある
浮世絵だけではなく、屏風・掛軸・絵巻なども含まれるため、江戸美術を幅広く楽しみたい人にも向いています。
まとめ|海を渡った江戸絵画が東京に帰ってくる
大英博物館には、約4万点もの日本美術が収蔵されています。今回の「百花繚乱」展では、その中から選ばれた江戸絵画や浮世絵の名品が東京都美術館に集まります。とくに注目したいのは、歌麿《文読む遊女》のイギリスからの初里帰り、海外に分かれていた襖絵の約150年ぶりの再会、円山応挙《虎の子渡し図屛風》、北斎《万物絵本大全》の版下絵、そして春信・歌麿・写楽・北斎・広重らスター絵師の競演です。
日本で生まれ、海を渡り、大英博物館で大切に受け継がれてきた作品たち。それらを東京でまとめて見られる貴重な機会です。会期は2026年10月18日(日)まで。浮世絵好きはもちろん、「北斎や広重くらいしか知らない」という人にもおすすめしたい展覧会です。
海を渡った江戸絵画を、会期のうちに
大英博物館の名品がまとめて来日する貴重な機会です。閉幕が近づくほど混雑しやすいので、行くと決めたら早めの日程で。チケットはアソビューでオンライン購入できます。
