《真珠の耳飾りの少女》とは?フェルメールの名画を解説|モデルは誰?真珠の謎・大きさ・どこで見られるか

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真珠の耳飾りの少女 ヨハネス・フェルメール

オランダ絵画のなかでも、いちばん多くの人が顔を思い浮かべられる一枚かもしれません。ヨハネス・フェルメールの《真珠の耳飾りの少女》。暗がりからこちらを振り返り、唇をわずかに開いた少女——名前も、素性も、正確な制作年も、はっきりとは分かっていません。それでも見る人を惹きつけて離さない。だから「北のモナ・リザ」とも呼ばれます。

僕がこの絵をすすめたいのは、謎の多さそのものが魅力になっているからです。モデルは誰か、耳の真珠は本物か、あの青はどうやって出したのか。近年の科学調査で見えてきたことも交えて、この記事で一枚ずつほどいていきます。

2026年には、大阪中之島美術館の「フェルメール《真珠の耳飾りの少女》展」(8月21日〜9月27日)で14年ぶりに日本で公開され、大きな話題になりました。会期後、作品はオランダ・デン・ハーグのマウリッツハイス美術館へ戻ります。

先に要点をまとめておきます。

  • 作者:ヨハネス・フェルメール(1632〜1675年)
  • 制作年:1665年頃(正確な年は分かっていない)
  • サイズ:44.5×39cm。名画としてはかなり小さい
  • 所蔵:マウリッツハイス美術館(オランダ・デン・ハーグ)
  • 絵の種類:特定の人物を描いた肖像画ではなく、「トローニー」と呼ばれる人物習作
  • モデル:誰なのかは分かっていない
  • 見どころ:高価なウルトラマリンの青、ほぼ2筆で描かれた真珠、振り返る瞬間の視線
目次

《真珠の耳飾りの少女》1665年頃

真珠の耳飾りの少女 ヨハネス・フェルメール
真珠の耳飾りの少女、ヨハネス・フェルメール、1665年頃、マウリッツハイス美術館蔵。Public domain, via Wikimedia Commons.

作品データ:真珠の耳飾りの少女/1665年頃/油彩・キャンバス/44.5×39cm/マウリッツハイス美術館(デン・ハーグ)蔵

まずは基本から。画面にいるのは、青いターバンを巻き、大粒の真珠を耳に下げた少女がひとり。背景は暗く、少女の顔と真珠だけが光のなかに浮かびます。大きさは44.5×39センチと、思ったより小さい。美術館で初めて対面した人が「こんなに小さいのか」と驚く、あのサイズです。

この絵の強さは、描き込みの多さではなく、削ぎ落とし方にあります。装飾も物語もほとんどありません。黒い背景に少女だけを沈め、光の当たった部分にだけ絵具を置く。使う色もラピスラズリ由来の青と、黄や肌色にほぼ絞られています。この引き算によって、見る人の視線が少女の眼差しへまっすぐ集まります。

この少女は誰? ―― 「肖像画」ではないという見方

真っ先に気になるのが、モデルは誰かという点だと思います。フェルメールの娘マーリアだ、いや使用人だ、恋人だ——さまざまな説が語られてきましたが、確かな裏づけはどれにもありません。真相は分かっていない、というのが今のところの答えです。

ここで手がかりになるのが、この絵はそもそも特定の誰かを写した肖像画ではない、という考え方です。美術史では、こうした絵をトローニーと呼びます。トローニーとは、実在する人物の記録ではなく、印象的な表情や衣装、頭部そのものを主題にした習作的な絵のこと。異国風のターバンも、現実の誰かの持ち物というより、絵を魅力的に見せるための演出と考えられています。モデルの正体を突き止めるより、「理想化された眼差し」として味わうほうが、この絵の本質に近いのかもしれません。

金より高かった「フェルメール・ブルー」

この絵を語るうえで外せないのが、ターバンの青です。フェルメールが好んだこの深い青はウルトラマリンという絵具で、原料はアフガニスタンで採れるラピスラズリという半貴石。当時は同じ重さの金より高価とも言われた、飛び抜けた贅沢品でした。

アフガニスタン産のラピスラズリの原石。青い地に金色の黄鉄鉱が点在する
ウルトラマリンの原料となるラピスラズリの原石(アフガニスタン産)。金色に光る粒は黄鉄鉱。Hannes Grobe, CC BY-SA 2.5, via Wikimedia Commons。
天然ウルトラマリンの顔料(青い粉末)
ラピスラズリから精製した天然ウルトラマリンの顔料。Palladian, Public domain, via Wikimedia Commons。

寡作なフェルメールが、この小さな一枚のためにそれほど高い顔料を惜しみなく使っている。そこに、彼がこの絵にかけた本気がにじみます。ターバンの陰にも安い黒で済ませず、青そのもので深みを出しているとも指摘されます。あの青の美しさは、財布の中身と引き換えに手に入れたものでもあったわけです。

耳の真珠は、実は“描かれた光”だった

大粒の真珠にも謎があります。まず、本物の真珠にしては大きすぎる。天然でこのサイズはまず採れないため、ガラスや錫でできた模造真珠ではないか、あるいは絵としての誇張ではないか、と考えられています。

さらに驚かされるのが描き方です。2018年にマウリッツハイス美術館が行った科学調査「ガール・イン・ザ・スポットライト」によると、この真珠には輪郭線がまったくありません。白い絵具の、透けたタッチと不透明なタッチを二つ置いただけ。しかも耳から吊るすための金具も描かれていない。真珠は物体として描かれているのではなく、光の反射だけで存在を感じさせる、いわば描かれた光なのです。

最新調査が見つけた「消えた緑のカーテン」とまつ毛

同じ2018年の調査は、背景についても新発見をもたらしました。今でこそ少女の背後は真っ黒に見えますが、フェルメールはもともとそこに緑のカーテンを描いていたと分かったのです。画像分析で、斜めに走る折り目や色のムラが確認されました。緑の絵具が数百年のあいだに化学変化を起こし、平らな暗がりに見えるまで変色してしまった、というわけです。描かれた当初、少女は暗闇ではなく、緑の布を背にして立っていたことになります。

もう一つ、肉眼では見えないまつ毛も見つかりました。両目のまわりに、ごく細い毛が描き込まれていたのです。加えてフェルメールは、耳やターバンの上、首の後ろの位置を少しずつ描き直していた跡も残しています。完璧に見える一枚が、実は細かな微調整の積み重ねだった。そう知ると、絵の見え方が少し変わります。

実物で見るときに注目したい3つのポイント

図版や画面では気づきにくく、実物の前に立つと分かる細部があります。どれも所蔵館のマウリッツハイス美術館が作品解説で挙げているポイントです。

1. 濡れたように光る唇

フェルメールが「光の画家」と呼ばれる理由が、いちばんよく分かるのが唇です。わずかに開いた唇の上に、小さな光の粒が置かれています。これが唇のしっとりした質感をつくり、振り返った瞬間にいまにも何か言いそうな表情を生んでいます。顔全体の輪郭もくっきりした線ではなく、光と影のやわらかな移り変わりで描かれています。

2. 厚く盛った襟、乾いた質感のターバン

白い襟は、絵具を厚く盛り上げる「インパスト(厚塗り)」で描かれ、光を受けて立体的に浮き上がります。一方、青いターバンは比較的乾いた絵具でざらりと仕上げられています。布の種類の違いを、絵具の厚みと質感で描き分けているわけです。真珠も同じ考え方で、左上の明るいハイライトと、下側に映り込んだ白い襟の反射。ほぼこの2筆だけで、丸い粒に見せています。

3. 左上の署名「IVMeer」

画面の左上、暗い背景のなかに「IVMeer」という署名があります。I・V・Mの3文字は組み合わせ文字のように重ねて書かれています。背景に溶け込んでいるため、意識して探さないと見落としやすい部分です。

忘れられ、再発見された「北のモナ・リザ」

これほどの絵ですが、はじめから有名だったわけではありません。フェルメール自身、死後は長く忘れられた画家でした。《真珠の耳飾りの少女》も、1881年にハーグの競売にかけられたときの値は、わずか2ギルダー数十セント。今の感覚でいえば捨て値です。落札した収集家デス・トンブがこの絵に価値を見いだし、20世紀の初めにマウリッツハイス美術館へ遺贈されて、ようやく多くの人の目に触れるようになりました。

知名度を決定づけたのが、トレイシー・シュヴァリエの小説(1999年)と、それを原作にした2003年の映画『真珠の耳飾りの少女』です。スカーレット・ヨハンソンが少女を、コリン・ファースがフェルメールを演じました。モデルが誰かも、二人の関係も分からない——その空白が、かえって物語を生む余白になりました。謎が多いことが、この絵の人気をむしろ支えています。

《真珠の首飾りの女》とは別の作品

検索すると「真珠の首飾りの少女」という言葉もよく出てきますが、《真珠の耳飾りの少女》とは別の作品です。フェルメールには、真珠の首飾りを身につけた女性を描いた《真珠の首飾りの女》という絵があり、こちらはドイツのベルリン国立美術館(絵画館)が所蔵しています。

真珠の首飾りの女 ヨハネス・フェルメール
真珠の首飾りの女、ヨハネス・フェルメール、1663〜1665年頃、ベルリン国立美術館(絵画館)蔵。Public domain, via Wikimedia Commons.

作品データ:真珠の首飾りの女/1663〜1665年頃/油彩・キャンバス/56.1×47.4cm/ベルリン国立美術館(絵画館)蔵

見分け方は簡単です。《真珠の耳飾りの少女》は、暗い背景の前で少女がこちらを振り返る胸から上の絵。《真珠の首飾りの女》は、明るい窓辺に立ち、毛皮で縁取られた黄色い上着の女性が、首飾りのリボンを持ち上げながら壁の小さな鏡を見ている室内の場面です。背景を消した人物習作(トローニー)と、日常の一場面を描いた室内画。絵の種類から違います。

どこで見られる? ―― 所蔵はオランダのマウリッツハイス美術館

マウリッツハイス美術館 外観 デン・ハーグ
マウリッツハイス美術館の外観。オランダ・デン・ハーグ。2015年撮影。Habib M’henni, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons。※本記事の作品画像とは別の、美術館外観の参考写真です。

普段この絵があるのは、オランダ・デン・ハーグのマウリッツハイス美術館です。17世紀の館をそのまま使った小さな美術館で、フェルメールの《デルフトの眺望》やレンブラントの作品なども所蔵しています。旅行で訪ねれば、常設で《少女》に会えます。

2026年には、大阪中之島美術館の「フェルメール《真珠の耳飾りの少女》展」で、14年ぶりに日本で公開されました。

  • 会場:大阪中之島美術館
  • 会期:2026年8月21日(金)〜9月27日(日)

▶ フェルメール《真珠の耳飾りの少女》展 公式サイト

オランダで見る予定がある人は、日程に注意してください。マウリッツハイス美術館の作品ページでは、2026年8月15日から10月4日まで、この絵は館内で展示されないと案内されています。旅行の前に、作品ページで最新の展示状況を確認しておくと確実です。

よくある質問

《真珠の耳飾りの少女》はどこにありますか?

オランダ・デン・ハーグのマウリッツハイス美術館です。パリのルーヴル美術館やオルセー美術館と混同されることがありますが、どちらにもありません。

大きさはどれくらいですか?

縦44.5cm、横39cmです。ポスターや画集で見慣れた人ほど、実物の小ささに驚くサイズです。

いつ描かれた絵ですか?

1665年頃とされています。制作年を記した記録はなく、画風などから推定された年代です。フェルメールが30代前半の頃にあたります。

モデルは誰ですか?

分かっていません。フェルメールの娘マーリアとする説などがありますが、裏づけはありません。所蔵館は、特定の人物の肖像画ではなく、想像上の人物を描いた「トローニー」だと説明しています。

なぜターバンを巻いているのですか?

異国風の衣装を着せた人物は、トローニーでよく描かれた題材です。ターバンもモデルの普段の持ち物ではなく、絵を印象的に見せるための演出と考えられています。

値段はいくらですか?

値段は付けられていません。マウリッツハイス美術館は公式ブログで、購入額は「ゼロ」(収集家からの遺贈のため)、現在の価値は「priceless(値段が付けられない)」と答えています。1881年の競売で付いた値は、わずか2ギルダー30セントでした。

《真珠の首飾りの女》と同じ絵ですか?

別の作品です。《真珠の首飾りの女》はベルリン国立美術館(絵画館)の所蔵で、窓辺で首飾りを着ける女性を描いた室内画です。

もっと深く知るための本

この一枚をさらに味わいたい人に、二冊を挙げておきます。

もっと知りたいフェルメール 改訂版(小林頼子/東京美術)

2017年7月/87ページ/ISBN 9784808710934

「フェルメール《真珠の耳飾りの少女》展」(朝日新聞出版/AERA Art)

2026年8月/96ページ/ISBN 9784022521453

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まとめ

《真珠の耳飾りの少女》は、分かっていることより分からないことのほうが多い絵です。モデルは誰か、真珠は本物か、なぜこの青なのか。その空白を科学調査や物語が少しずつ埋めながら、それでも核心は謎のまま残っている。だからこそ何度でも見たくなるのだと思います。

実物の前に立つ機会があれば、青いターバンと真珠だけでなく、唇の小さな光、厚く盛られた襟、左上の署名まで見ておくと、小さな画面に印刷では気づけない情報がいくつも重なっていることが分かります。

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