モネ代表作10選|《睡蓮》《印象・日の出》《日傘をさす女》など

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クロード・モネ《日傘をさす女》1875年、丘の上で日傘をさす妻カミーユと息子ジャン

モネといえば《睡蓮》が有名ですが、それ以外にも《印象、日の出》《日傘をさす女》《積みわら》《ルーアン大聖堂》など、印象派を代表する名作を数多く残しています。この記事では、モネの有名な絵の中から代表作10点を選び、制作年・所蔵先・見どころを一覧表と作品画像で紹介します。

1点ずつ「なぜ代表作と呼ばれるのか」「実物を見るときにどこを見るといいか」も解説するので、モネの作品をひと通り知りたいときや、美術館へ行く前の予習に使ってください。

モネの生涯や画風、印象派との関係から知りたい方は、クロード・モネとは?生涯・画風・代表作を解説で詳しく解説しています。この記事では、作品そのものの解説に絞ります。

2026年はモネの没後100年にあたり、日本でもモネの作品をまとめて見られる展覧会が開かれています。記事の後半では、いま日本で実物を見られる作品もまとめました。

クロード・モネの肖像写真(1899年、ナダール撮影)
クロード・モネ(1840〜1926年)/1899年撮影/撮影:Nadar(Public domain, via Wikimedia Commons
目次

モネの代表作10選を一覧で比較

まずは10作品を表で比較します。1869年の《ラ・グルヌイエール》から、1926年に亡くなるまで描き続けた《睡蓮》まで、半世紀以上にわたる作品を選んでいます。

No.作品名制作年主な所蔵先見どころ
1《印象、日の出》1872年マルモッタン・モネ美術館(パリ)「印象派」という名前の由来になった港の朝
2《睡蓮》1890年代末〜1926年(連作)オランジュリー美術館(パリ)、国立西洋美術館(東京)ほか約250点。晩年は水面だけで画面を埋める
3《日傘をさす女》1875年ナショナル・ギャラリー・オブ・アート(ワシントンD.C.)見上げる構図と、風を感じさせる速い筆づかい
4《積みわら》1890〜1891年(連作)シカゴ美術館ほか同じモチーフを季節と時間の光で描き分けた連作
5《ルーアン大聖堂》1892〜1894年(連作)オルセー美術館(パリ)、ポーラ美術館(箱根)ほか石の大聖堂が時間によって色を変える
6《サン=ラザール駅》1877年オルセー美術館(パリ)蒸気と鉄骨の駅で「近代の風景」を描く
7《ラ・グルヌイエール》1869年メトロポリタン美術館(ニューヨーク)ルノワールと並んで描いた、きらめく水面
8《アルジャントゥイユのひなげし》1873年オルセー美術館(パリ)第1回印象派展に出品。赤い点で描かれた花
9《国会議事堂》1900〜1904年(連作)ナショナル・ギャラリー・オブ・アート、ポーラ美術館ほか霧のロンドンを夕日の逆光で描く
10《日本の橋》1899年ナショナル・ギャラリー・オブ・アート、ポーラ美術館ほか自ら造った庭の太鼓橋。《睡蓮》へつながる

※連作は同じ題名の作品が複数あり、所蔵先も各地に分かれています。この記事では、それぞれ代表的な1点を図版として掲載しています。

モネの代表作10選

ここからは1点ずつ、作品の特徴、代表作とされる理由、実物を見るときのポイントを解説します。

1.《印象、日の出》1872年

クロード・モネ《印象、日の出》1872年、霧のル・アーヴル港とオレンジ色の太陽
《印象、日の出》/クロード・モネ/1872年/マルモッタン・モネ美術館(パリ)(Public domain, via Wikimedia Commons
  • 原題:Impression, soleil levant
  • 制作年:1872年
  • 所蔵:マルモッタン・モネ美術館(パリ)

作品の特徴
フランス北部の港町ル・アーヴルで、モネが滞在したホテルの窓から、早朝の外港を描いた作品です。霧の中にクレーンや煙突、帆柱がぼんやりと並び、オレンジ色の太陽とその反射だけがはっきりした色で置かれています。船や建物の形は細かく描かず、朝の空気と光の印象を素早く捉えることを優先しています。

なぜ代表作なのか
1874年、モネは仲間の画家たちと開いたグループ展にこの絵を出品し、題名に「印象(Impression)」という言葉を入れました。批評家ルイ・ルロワは風刺記事の見出しに「印象派の展覧会」と書き、この呼び名はやがてグループ全体の名前として定着します。「印象派」という言葉の出発点になった1点であり、美術史のなかでほかに代わりのない作品です。

鑑賞のポイント
注目したいのは太陽と水面の反射です。太陽は画面でいちばん目立つ色ですが、輪郭の線はなく、灰青色の空の上に置かれたオレンジ色の絵の具のかたまりです。水面の反射も、横向きの短いタッチを数本重ねただけで表されています。少し離れて見ると、このわずかなタッチが波に揺れる光に見えてきます。

制作の経緯や「印象派」誕生の流れは、モネ《印象・日の出》の解説記事で詳しく紹介しています。

2.《睡蓮》1890年代末〜1926年(連作)

クロード・モネ《睡蓮》1906年、水面に浮かぶ睡蓮と空や木々の反射
《睡蓮》/クロード・モネ/1906年/シカゴ美術館(Public domain, via Wikimedia Commons
  • 原題:Nymphéas
  • 制作年:1890年代末〜1926年(連作。図版は1906年の作品)
  • 主な所蔵:オランジュリー美術館(パリ)、シカゴ美術館、国立西洋美術館(東京)、ポーラ美術館(箱根)など

作品の特徴
1883年からジヴェルニーに住んだモネは、1893年に隣の土地を買って池のある「水の庭」を造り、睡蓮を植えました。《睡蓮》はこの池を描いた連作で、シカゴ美術館によると数はおよそ250点にのぼります。初期は池に架かる太鼓橋を含む庭の風景として描かれていましたが、図版の1906年の作品では岸も空も描かれず、画面が水面だけで占められています。

なぜ代表作なのか
晩年のモネは、睡蓮を壁画のような大作に発展させました。第一次世界大戦の休戦翌日にあたる1918年11月12日、モネは睡蓮の装飾画を国に寄贈したいと政治家クレマンソーに申し出ます。作品はモネの死後、1927年5月にパリのオランジュリー美術館で公開されました。高さ約2メートルの8つの大画面が、楕円形の2つの展示室の壁を囲んでいます。晩年の抽象に近い表現は、第二次世界大戦後、抽象表現主義との関係のなかで改めて評価されました。

オランジュリー美術館の楕円形の展示室に並ぶモネ《睡蓮》の大装飾画
オランジュリー美術館の《睡蓮》展示室(パリ)(Photo: Brady Brenot, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

鑑賞のポイント
睡蓮の絵では、花よりも水面に映っているものに注目してください。シカゴ美術館の解説のとおり、1906年の作品の水面には木々や雲が映り込んでいます。睡蓮の花は水の上に浮かび、雲や木は水の中に映った姿なので、ひとつの画面に「水の上」と「水に映った空」が重なっています。

日本では、上野の国立西洋美術館が1916年の《睡蓮》(200.5×201cm、松方コレクション)を所蔵しています。箱根のポーラ美術館では、開催中の展覧会で1907年の《睡蓮》などが展示されています(詳しくは記事後半で紹介)。

睡蓮の池ができた経緯やオランジュリー美術館の大装飾画、日本で見られる《睡蓮》については、モネ《睡蓮》徹底解説で詳しくまとめています。

3.《日傘をさす女》1875年

クロード・モネ《日傘をさす女》1875年、丘の上で日傘をさす妻カミーユと息子ジャン
《日傘をさす女(散歩、日傘をさす女)》/クロード・モネ/1875年/ナショナル・ギャラリー・オブ・アート(ワシントンD.C.)(CC0, via Wikimedia Commons
  • 英題:Woman with a Parasol – Madame Monet and Her Son
  • 制作年:1875年
  • 所蔵:ナショナル・ギャラリー・オブ・アート(ワシントンD.C.)

作品の特徴
丘の上に立つモネの妻カミーユと、その後ろにいる息子ジャンを、下から見上げるように描いた作品です。ナショナル・ギャラリー・オブ・アートの解説によると、空は青と灰色の荒々しいタッチで描かれ、ところどころ下地のキャンバスが見えたまま残されています。一方、草地は緑や青の短いタッチを重ねて、比較的密に描かれています。

なぜ代表作なのか
屋外の光の中に人物を置き、日差しや風といったその場の条件ごと描いた点で、印象派の人物画を代表する1点です。顔立ちは細かく描き込まれていません。画面で目立つのは、白いドレスに当たる光と影、そして風に揺れるスカートやヴェールの動きです。

モネは約10年後の1886年にも、日傘をさして丘に立つ女性を2点描いています。こちらのモデルは、モネの2番目の妻アリスの娘シュザンヌ・オシュデで、2点ともパリのオルセー美術館が所蔵しています。「日傘をさす女」と呼ばれる作品は複数あるので、画像を探すときや美術館で見るときは、制作年と所蔵先を確認すると混同を防げます。

鑑賞のポイント
空の部分に注目してください。青と白と灰色の絵の具が、向きのそろわないタッチで勢いよく置かれています。この速い筆づかいが、画面全体に風が吹いている感覚をつくっています。ドレスの白も一色ではなく、日の当たる部分は黄色みを帯び、影の部分は青や紫で描かれています。

4.《積みわら》1890〜1891年(連作)

クロード・モネ《積みわら(夏の終わり)》1890〜1891年、夕方の光を受けた2つの積みわら
《積みわら(夏の終わり)》/クロード・モネ/1890〜1891年/シカゴ美術館(Public domain, via Wikimedia Commons
  • 英題:Stacks of Wheat (End of Summer)(図版)
  • 制作年:1890〜1891年
  • 所蔵:シカゴ美術館(図版)。連作は各地の美術館に分かれて所蔵

作品の特徴
ジヴェルニーの自宅のすぐ外にあった、高さ4.5〜6メートルほどの積みわらを描いた連作です。シカゴ美術館によると、モネは1890年から1891年にかけて、畑で複数のイーゼルを並べて同時に描き進め、アトリエでも色の調和を整えました。同じ積みわらを、夏の終わり、秋、雪の積もった冬など、季節と時間を変えて描いています。

なぜ代表作なのか
1891年5月、モネはこの連作のうち15点を、パリのデュラン=リュエル画廊の一室に並べて展示しました。展覧会は批評の面でも売れ行きの面でも大きな成功を収め、モネの画業の転機になりました。同じモチーフを光の条件だけ変えて描き、並べて見せる「連作」はここで確立し、このあと《ポプラ並木》《ルーアン大聖堂》、ジヴェルニーの庭へと続いていきます。シカゴ美術館は、この連作を世界で最も多く所蔵する美術館です。

鑑賞のポイント
積みわらの影の色を見てください。図版の《夏の終わり》では、影は黒ではなく青や紫で描かれ、夕方の光を受けたわら自体はオレンジやピンクを帯びています。「影にも色がある」という見方は、ほかのモネ作品を見るときにも役立ちます。

日本では、箱根のポーラ美術館が1884年の《ジヴェルニーの積みわら》を所蔵しています。ポーラ美術館によると、モネは1884〜1886年に積みわらを8点描いており、1891年の連作より前の作品です。2027年4月7日まで開催中の「あたらしい目」展で展示されています。

5.《ルーアン大聖堂》1892〜1894年(連作)

クロード・モネ《ルーアン大聖堂、扉口とサン=ロマン塔、陽光》1893年、青と金色に輝く大聖堂の正面
《ルーアン大聖堂、扉口とサン=ロマン塔、陽光(青と金のハーモニー)》/クロード・モネ/1893年/オルセー美術館(パリ)(Public domain, via Wikimedia Commons
  • 原題:La Cathédrale de Rouen. Le Portail et la Tour Saint-Romain, plein soleil(図版)
  • 制作年:1893年(図版)。連作は1892〜1894年
  • 所蔵:オルセー美術館(図版)、ポーラ美術館(1892年の作品)ほか

作品の特徴
北フランスの都市ルーアンにあるノートル=ダム大聖堂の西正面を描いた連作です。ポーラ美術館の解説によると、モネは大聖堂の向かいの建物の2階の部屋にイーゼルを立て、夜明け直後から日没直後まで、さまざまな時間と天候のもとで描きました。作品の数は33点にのぼります。

なぜ代表作なのか
《積みわら》で光の違いを描き分けたモネは、ここで対象を動かない石の建築に変えました。1895年5月にはデュラン=リュエル画廊の個展で、そのうち20点を発表しています。細かな彫刻で飾られたゴシック建築の正面が、朝は青っぽく、日中は白や金色に、夕方はバラ色に見える。この連作の主役は、大聖堂という建物より、その表面で刻々と変わる光です。

鑑賞のポイント
実物では画面の表面に注目してください。絵の具が何層にも重ねられ、ざらついた厚みがあります。近くで見ると石の壁のような質感があり、離れると光に包まれた大聖堂の姿がまとまって見えます。オルセー美術館では、この連作の複数の作品が同じ展示室に展示されているので、時間帯による色の違いを比べやすくなっています(展示状況は変わる場合があります)。

日本では、ポーラ美術館が1892年の《ルーアン大聖堂》を所蔵しています。夕方6時頃のバラ色の光を受けた大聖堂を描いたとされる作品で、画面の下側の灰色は、向かいの建物が落とす影です。開催中の「あたらしい目」展(〜2027年4月7日)で展示されています。

6.《サン=ラザール駅》1877年

クロード・モネ《サン=ラザール駅》1877年、鉄骨の屋根の下で蒸気を上げる機関車
《サン=ラザール駅》/クロード・モネ/1877年/オルセー美術館(パリ)(Public domain, via Wikimedia Commons
  • 原題:La Gare Saint-Lazare
  • 制作年:1877年
  • 所蔵:オルセー美術館(パリ)

作品の特徴
パリのサン=ラザール駅の構内を描いた作品です。三角形の鉄骨とガラスの屋根の下に機関車が入り、画面の中央は白や青の蒸気で満たされています。オルセー美術館は、鉄骨の幾何学的な構造がありながら、この絵で優先されているのは機械や乗客の描写ではなく、色と光の効果だと説明しています。

なぜ代表作なのか
1877年、モネはアルジャントゥイユを離れてパリに住み、駅の構内で制作する許可を得ました。当時、批評家のデュランティやゾラは、画家は自分の時代を描くべきだと主張していました。モネは視点を変えながらこの駅を何点も描き、同じ年の第3回印象派展に出品しています。郊外の自然の光を描いてきたモネが、鉄道と蒸気という「近代の風景」に取り組んだ作品です。この絵は1878年に画家のカイユボットが購入し、のちに彼の遺贈によって国のコレクションに入りました。

ポーラ美術館の解説では、この連作に、モネが1870〜71年にロンドンに滞在した際に見たターナーの作品の影響があるとされています。蒸気や光で形が溶けていく表現は、ターナー《戦艦テメレール号》の解説記事とあわせて見ると比べやすくなります。

鑑賞のポイント
蒸気の色を見てください。白一色ではなく、青、灰色、クリーム色が混ざり、屋根の向こうの光を受けて場所ごとに色が変わっています。黒い機関車と明るい蒸気の対比も見どころです。なお、オルセー美術館の公式サイトでは、本作は現在館内で展示されていないと表示されています(2026年9月時点)。現地で見る予定がある場合は、事前に展示状況を確認してください。

日本では、ポーラ美術館が同じ1877年に描かれた《サン=ラザール駅の線路》を所蔵しており、「あたらしい目」展で展示されています。

2026年11月から、東京でモネが描いた「パリの街」を見られます

駅や街路といったパリの都市風景は、2026年秋に東京で実物を見る機会があります。東京都美術館で2026年11月14日から開かれる「オルセー美術館所蔵 いまを生きる歓び」展では、公式サイトの作品紹介で、モネの《パリ、モントルグイユ通り、1878年6月30日の祝祭》(1878年)が紹介されています。

クロード・モネ《パリ、モントルグイユ通り、1878年6月30日の祝祭》1878年、無数の三色旗で埋まる通り
《パリ、モントルグイユ通り、1878年6月30日の祝祭》/クロード・モネ/1878年/オルセー美術館(パリ)(Public domain, via Wikimedia Commons

《サン=ラザール駅》の翌年に描かれた作品で、三色旗で埋め尽くされた通りを高い位置から見下ろしています。オルセー美術館によると、7月14日の革命記念日の光景と思われがちですが、実際には、パリ万国博覧会にあわせて政府が定めた「平和と労働」を祝う1878年6月30日の祝祭を描いたものです。旗は細かく描かれず、赤・白・青のタッチの連なりで表されています。会場では、近くで見たときと離れたときの見え方の違いを確かめられます。

  • 展覧会名:東京都美術館開館100周年記念 オルセー美術館所蔵 いまを生きる歓び
  • 会期:2026年11月14日(土)〜2027年3月28日(日)
  • 会場:東京都美術館 企画展示室(東京・上野)
  • 他会場への巡回はありません(公式サイトより)

展覧会の見どころやチケット情報は、オルセー美術館展2026の見どころ・チケット情報にまとめています。

7.《ラ・グルヌイエール》1869年

クロード・モネ《ラ・グルヌイエール》1869年、セーヌ川の行楽地と水面のきらめき
《ラ・グルヌイエール》/クロード・モネ/1869年/メトロポリタン美術館(ニューヨーク)(CC0, via Wikimedia Commons
  • 原題:La Grenouillère
  • 制作年:1869年
  • 所蔵:メトロポリタン美術館(ニューヨーク)

作品の特徴
パリ西郊、クロワシー近くのセーヌ川にあった、水浴とボート遊びの行楽地「ラ・グルヌイエール」を描いた作品です。中央の小さな島(「カマンベール」と呼ばれていました)に人々が集まり、手前には貸しボートが並んでいます。水面は、明るい色と暗い色の短いタッチを横に並べて描かれています。

なぜ代表作なのか
1869年の夏、モネはルノワールと並んでこの場所を描きました。ストックホルムの国立美術館にあるルノワールの作品は、ほぼ同じ視点から描かれています。同じ年の9月、モネは画家バジールに宛てた手紙に、この場所の絵について「ひどいスケッチをいくつか描いた」と書いており、メトロポリタン美術館は、本作がそのスケッチにあたると考えられているとしています。のちに印象派の特徴となる、水面の光を色のタッチで表す描き方が、《印象、日の出》の3年前にすでに見られる点で重要な作品です。

鑑賞のポイント
手前の水面に近づくと、ひとつひとつのタッチは色の帯にしか見えません。数歩下がると、それが揺れる水面ときらめきに変わります。印象派の「近くで見ると絵の具、離れると風景」という見え方を体験しやすい作品です。ルノワールをはじめ、同じ時代の画家たちについては印象派とは?歴史・特徴・代表作で紹介しています。

8.《アルジャントゥイユのひなげし》1873年

クロード・モネ《アルジャントゥイユのひなげし》1873年、赤いひなげしの丘を歩く母子
《ひなげし(アルジャントゥイユのひなげし)》/クロード・モネ/1873年/オルセー美術館(パリ)(Public domain, via Wikimedia Commons
  • 原題:Coquelicots
  • 制作年:1873年
  • 所蔵:オルセー美術館(パリ)

作品の特徴
パリ北西の町アルジャントゥイユ近郊の、ひなげしが咲く丘を描いた作品です。画面は赤が中心の部分と、青みがかった緑が中心の部分に分かれ、日傘をさす女性と子どもの組が手前と奥に1組ずつ描かれています。オルセー美術館は、手前の2人はモネの妻カミーユと息子ジャンだろうとしています。

なぜ代表作なのか
モネは1871年にイギリスから戻った後、1878年までアルジャントゥイユに住み、明るい郊外の風景を屋外で描きました。この作品は1874年の第1回印象派展で公開されています。オルセー美術館は、輪郭をぼかし、花を絵の具の点で表したこの描き方を「抽象への一歩」と説明しています。

鑑賞のポイント
手前のひなげしをよく見ると、奥の花に比べて不自然なほど大きな赤い点で描かれています。花の形を正確に描くより、目に入った「赤の印象」を優先した表現です。また、手前と奥の母子を結ぶと、丘を斜めに横切る線が見えてきます。人物は、この斜めの構図をつくる役割も担っています。

日本では、ポーラ美術館が同じアルジャントゥイユ時代の《花咲く堤、アルジャントゥイユ》(1877年)を所蔵しており、「あたらしい目」展で展示されています。

9.《国会議事堂》1900〜1904年(連作)

クロード・モネ《国会議事堂、日没》1903年、夕日の逆光でシルエットになったロンドンの国会議事堂
《国会議事堂、日没》/クロード・モネ/1903年/ナショナル・ギャラリー・オブ・アート(ワシントンD.C.)(CC0, via Wikimedia Commons
  • 英題:The Houses of Parliament, Sunset(図版)
  • 制作年:1903年(図版)。連作は1900年に描き始め、1904年に発表
  • 所蔵:ナショナル・ギャラリー・オブ・アート(図版)、ポーラ美術館ほか

作品の特徴
ロンドンのテムズ川沿いに建つ国会議事堂を、夕日の逆光の中で描いた連作です。建物は細部が消えて青いシルエットになり、空と川面はオレンジや紫に染まっています。

なぜ代表作なのか
ポーラ美術館の解説によると、モネは1900年の冬、息子ミシェルが留学していたロンドンに滞在してこの連作を描き始め、翌年の冬も同地で制作を続けました。仕上げはジヴェルニーのアトリエで行い、1904年にデュラン=リュエル画廊の個展で発表しています。描いた場所は、議事堂の真東に位置するセント・トーマス病院のテラスでした。《積みわら》や《ルーアン大聖堂》が光の変化を追った連作だったのに対し、ロンドンの連作では霧がもうひとつの主役です。モネは、霧がなければロンドンは美しい町ではありえない、という趣旨の言葉を残しています。

鑑賞のポイント
議事堂の塔は、はっきりした線ではなく、周りの空との色の差だけで浮かび上がっています。夕日が水面に反射する部分では、オレンジと青のタッチが交互に置かれています。霧が建物の輪郭をぼかし、光を広げている様子は、こうした色の境目に表れています。

日本では、ポーラ美術館の《国会議事堂、バラ色のシンフォニー》(1900年)が同じ連作の1点で、「あたらしい目」展で展示されています。

10.《日本の橋》1899年

クロード・モネ《日本の橋》1899年、ジヴェルニーの睡蓮の池に架かる太鼓橋
《日本の橋(太鼓橋)》/クロード・モネ/1899年/ナショナル・ギャラリー・オブ・アート(ワシントンD.C.)(CC0, via Wikimedia Commons
  • 英題:The Japanese Footbridge(図版)
  • 制作年:1899年
  • 所蔵:ナショナル・ギャラリー・オブ・アート(図版)、ポーラ美術館(《睡蓮の池》1899年)ほか

作品の特徴
ジヴェルニーの「水の庭」に架けた太鼓橋と、睡蓮の浮かぶ池を描いた作品です。ポーラ美術館によると、モネは好きだった浮世絵に描かれているような日本風の太鼓橋を池に架け、周りに柳、竹、藤、アイリスなどを植えました。画面の上端まで木々の緑が埋め、空はほとんど見えません。

なぜ代表作なのか
ナショナル・ギャラリー・オブ・アートによると、モネは1899年、同じ視点から橋と池を描いた作品を連作としてまとめて制作しました。自分で設計した庭をモチーフにした点で、晩年の《睡蓮》へ直接つながる作品です。このあとモネの関心は、橋を含む庭の風景から、池の水面そのものへと移っていきます。

太鼓橋は浮世絵によく描かれたモチーフでもあります。たとえば歌川広重の《名所江戸百景 亀戸天神境内》には、藤の花の向こうに急な弧を描く太鼓橋が描かれています。広重の作品は歌川広重 代表作12選で紹介しています。

ジヴェルニーのモネの庭に現存する緑色の太鼓橋と睡蓮の池
現在のジヴェルニー、モネの庭の太鼓橋(クロード・モネ財団)(Photo: Supercarwaar, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

鑑賞のポイント
橋の青緑色、睡蓮の白やピンク、周りの草木の緑は、近い色どうしを重ねて描かれています。近くで見ると色の違いがわかり、離れると画面全体が緑の光に包まれて見えます。晩年に描かれた《日本の橋》では、橋の形が赤や黄色の激しいタッチの中に溶け込むように描かれ、同じモチーフでも表現が大きく変わっていきます。

日本では、ポーラ美術館の《睡蓮の池》(1899年)が同じ年に太鼓橋を描いた作品で、「あたらしい目」展で展示されています。

年代順に見る、モネの作品の変化

10作品を制作年の順に並べ直すと、モネの関心がどう移っていったかが見えてきます。

  • 1860年代末〜1870年代:水辺や郊外の光を、短いタッチで素早く描く(《ラ・グルヌイエール》1869年、《印象、日の出》1872年、《アルジャントゥイユのひなげし》1873年、《日傘をさす女》1875年)
  • 1877年:鉄道と蒸気という都市の近代を描く(《サン=ラザール駅》)
  • 1890年代:同じモチーフを光の条件を変えて描く「連作」を確立(《積みわら》《ルーアン大聖堂》)
  • 1899年〜1900年代前半:自分で造った庭と、霧のロンドン(《日本の橋》《国会議事堂》)
  • 1900年代〜1926年:水面だけを描く《睡蓮》と、オランジュリー美術館の大装飾画

どの時期にも共通しているのは、対象そのものより、その場の光や空気がどう見えるかを描こうとしている点です。初期は一瞬の光景を素早く捉えることに、1890年代以降は同じ対象を何度も描いて光の違いを比べることに、重心が移っていきます。

作品に関わる画家や文化としては、ロンドンで見たターナー、日本の浮世絵、ともに戸外で描いたルノワールなどが挙げられます。モネの生涯や人物関係はクロード・モネとは?で詳しく解説しています。

10選とあわせて知りたいモネの作品

《ラ・ジャポネーズ》1876年

クロード・モネ《ラ・ジャポネーズ》1876年、赤い打掛を着て扇を持つカミーユ
《ラ・ジャポネーズ》/クロード・モネ/1876年/ボストン美術館(Public domain, via Wikimedia Commons
  • 原題:La Japonaise
  • 制作年:1876年
  • 所蔵:ボストン美術館

赤い打掛(うちかけ)を着た妻カミーユを、高さ約2.3メートル(231.8×142.3cm)の大画面に描いた作品です。背景の壁と床には多数のうちわが散らされています。ボストン美術館は、19世紀のヨーロッパで広がった日本美術への熱狂(ジャポニスム)を背景にした作品と位置づけ、モネがジャポニスムの人工的な側面を強調しているようにも見えると解説しています。《日本の橋》とあわせて、モネと日本の関係を考えるうえで欠かせない1点です。

モネの代表作を日本で見るには(2026年)

10選の多くは海外の美術館にありますが、2026年から2027年にかけては、日本でもモネの実物をまとめて見られる機会が続きます。以下は2026年9月10日時点の公式情報です。

ポーラ美術館「あたらしい目 ― モネと21世紀のアート」(〜2027年4月7日)

神奈川県箱根町のポーラ美術館の外観
ポーラ美術館(神奈川県箱根町)(Photo: 663highland, CC BY 2.5, via Wikimedia Commons)※本記事の作品画像とは別の、美術館外観の参考写真です。
  • 展覧会名:モネ没後100年・開館25周年記念 あたらしい目 ― モネと21世紀のアート
  • 会期:2026年6月17日(水)〜2027年4月7日(水)
  • 休館日:12月1日(火)
  • 会場:ポーラ美術館(神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285)

ポーラ美術館は、所蔵するモネの油彩画19点をこの展覧会ですべて展示しています。10選に関係する作品では、《ルーアン大聖堂》(1892年)、《国会議事堂、バラ色のシンフォニー》(1900年)、《睡蓮の池》(1899年)、《睡蓮》(1907年)、《ジヴェルニーの積みわら》(1884年)、《サン=ラザール駅の線路》(1877年)を見ることができます。モネの作品と現代作家の作品を組み合わせた構成なので、モネだけを並べた展覧会とは違う角度から作品を見られます。

公式サイト:ポーラ美術館「あたらしい目 ― モネと21世紀のアート」

国立西洋美術館(東京・上野)

1916年の《睡蓮》(松方コレクション)を所蔵しています。約2メートル四方の画面いっぱいに水面が広がる、晩年の《睡蓮》です。常設展示の作品は展示替えや貸し出しで見られない時期もあるため、訪問前に公式サイトで確認してください。作品の詳細はモネ《睡蓮》徹底解説で紹介しています。

オルセー美術館所蔵 いまを生きる歓び(2026年11月14日〜)

東京都美術館で2026年11月14日(土)から2027年3月28日(日)まで開催されます。公式サイトの作品紹介では、モネの《パリ、モントルグイユ通り、1878年6月30日の祝祭》のほか、ゴッホ《星月夜》、ミレー《落穂拾い》などが紹介されています。他会場への巡回はなく、東京だけの開催です。

公式サイト:オルセー美術館所蔵 いまを生きる歓び/ARTZUKANの解説:オルセー美術館展2026の見どころ・チケット情報

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セーヌ川沿いに建つパリのオルセー美術館の外観
オルセー美術館(パリ)(Photo: DiscoA340, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons)※本記事の作品画像とは別の、美術館外観の参考写真です。
  • マルモッタン・モネ美術館(パリ):《印象、日の出》
  • オルセー美術館(パリ):《サン=ラザール駅》《アルジャントゥイユのひなげし》、《ルーアン大聖堂》の連作数点、1886年の《日傘をさす女》2点
  • オランジュリー美術館(パリ):《睡蓮》の大装飾画
  • ナショナル・ギャラリー・オブ・アート(ワシントンD.C.):《日傘をさす女》(1875年)、《国会議事堂、日没》、《日本の橋》
  • シカゴ美術館:《積みわら》の連作、《睡蓮》(1906年)
  • メトロポリタン美術館(ニューヨーク):《ラ・グルヌイエール》
  • ボストン美術館:《ラ・ジャポネーズ》

パリでは、オルセー美術館とオランジュリー美術館がセーヌ川をはさんで近くにあり、1日で両方を回る計画も立てやすい位置関係です。オルセー美術館は2026年3月10日から2028年夏まで受付エリアの改修工事を行っているため、訪問前に公式サイトで入館方法を確認してください。館内の見どころはオルセー美術館の完全ガイドで紹介しています。

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まとめ|モネの作品は「近づいて、離れて」見る

モネの代表作10点を紹介しました。《印象、日の出》で「印象派」という名前が生まれ、《積みわら》《ルーアン大聖堂》で連作という方法が確立し、晩年の《睡蓮》では水面だけで画面を埋めるところまで進みました。10点を並べると、モネが生涯を通じて「光がどう見えるか」を描き続けたことがわかります。

モネの作品は、画像で見るだけでは分かりにくい筆触や色の重なりがあります。機会があれば、実物を少し離れたり近づいたりしながら見てください。美術館では、次の順番で見るのがおすすめです。

  1. まず2〜3メートル離れて、画面全体の光と空気をつかむ
  2. 次に近づいて、タッチの向き、絵の具の厚み、隣り合う色の組み合わせを見る(展示室のルールの範囲で)
  3. もう一度離れて、ばらばらだったタッチが水面や霧、光に戻る瞬間を確かめる

連作の場合は、同じ美術館や展覧会で複数の作品を見比べると、時間や天候による色の違いがはっきりわかります。僕がすすめたいのは、気になった1点の前で5分ほど立ち止まり、距離を変えながら見ることです。2026年は、箱根のポーラ美術館で「あたらしい目」展が開催中で、11月からは東京都美術館でオルセー美術館展が始まります。日本でモネの実物に出会える機会に、画集や画面では見えない色の重なりを確かめてください。

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