赤い部屋、鮮やかな緑、踊る人々――。アンリ・マティスと聞いて、強烈な色彩を思い浮かべる人は多いでしょう。そんなマティスの「黒と白」に注目した展覧会が、2027年春、東京・上野の国立西洋美術館で開催されます。
展覧会名は「マティス 黒と白の詩学―ピエール&タナ・マティス財団の版画コレクションを中心に」。開催日・料金・休館日を整理するとともに、木版画とリトグラフなどの実例を使って、鑑賞前に知りたい「線のマティス」の魅力を紹介します。
・会期:2027年3月20日(土)〜7月19日(月・祝)
・会場:国立西洋美術館(上野)
・一般料金:2,300円
・主題:ピエール&タナ・マティス財団の版画コレクションを中心とする白黒表現
・出品作品・チケット販売方法の詳細は、公式発表を確認して随時更新
展覧会の広報ビジュアルに使われているのが、マティスの版画《イザイア(Isaïa)》(1938年)です。黒い背景に、女性の顔と花模様の衣服が白い線で浮かび上がります。作品そのものの画像を使って、その見どころを見ていきましょう。

《イザイア》は版画の技法リノカットによる作品です。リノリウム板から線を彫り抜くことで、黒い面と白い線を対比させています。広報ビジュアルへの採用と、実際の展覧会への出品確定は別なので、展示作品リストは公式発表を確認してください。
マティス展2027「黒と白の詩学」の開催概要
2026年10月25日現在に確認できる開催情報をまとめました。祝日周辺は月曜開館と翌日の休館があるため、訪問前に再確認してください。
| 項目 | 開催情報 |
| 展覧会名 | マティス 黒と白の詩学―ピエール&タナ・マティス財団の版画コレクションを中心に |
| 会期 | 2027年3月20日(土)〜7月19日(月・祝) |
| 会場 | 国立西洋美術館 企画展示室(東京都台東区上野公園7-7) |
| 開館時間 | 9:30〜17:30(金・土曜日は20:00まで)/入館は閉館30分前まで |
| 休館日 | 月曜日、3月23日(火)、5月6日(木)。ただし3月22日(月・休)、3月29日(月)、5月3日(月・祝)、7月19日(月・祝)は開館 |
| 観覧料 | 一般2,300円/大学生1,300円/高校生1,000円 |
| 公式情報 | 国立西洋美術館の展覧会案内 |
最新情報は国立西洋美術館の公式サイトで確認できます。記事内の料金・時間・休館日は今後変更される可能性があります。
見どころは?「色彩の魔術師」が描いた黒と白
見どころ1|色を使わず、線と余白だけで人物を描く
マティスの絵の特徴は、現実の色にとらわれず画面全体の調和をつくることにあります。ところが版画を見ると、色を使わずとも、その考え方が線の形や空白の取り方に現れていることがわかります。輪郭を一本でつなげるのか、短い線を何本も重ねるのか。同じ人物の表現でも、印象は大きく変わります。
白い部分は「何も描かれていない場所」ではありません。人物の周囲の空間や紙の白さも、画面のリズムをつくる重要な要素です。
見どころ2|木版画からリトグラフまで、技法による線の違い
マティスは木版画やリノカットのほか、リトグラフ(石版画)、エッチング、ドライポイントなど複数の版画技法に取り組みました。《イザイア》はリノリウム板を彫るリノカットによる作品です。木版画では黒い形と彫り残した白との対比が強く、リトグラフではクレヨンや鉛筆のような柔らかな線を生かせます。銅版画では、細い線やかすかな表情の変化が際立ちます。
本展は、ピエール&タナ・マティス財団の版画コレクションを中心に構成される企画展です。過去にも同財団の所蔵品を使ったマティス版画展が海外で開催されてきました。ただし過去展の出品作が、そのまま今回の東京展に出るとは限りません。
見どころ3|「上手に写す」と「少ない線で伝える」の違い
マティスの人物画は、単に情報を省いているのではありません。表情や姿勢を残しながら、線の数や角度を突き詰めています。実物の版画を見るときは、顔の輪郭、手指、衣服の模様、そして描かれていない余白の4点に注目すると、作品ごとの工夫を比較しやすくなります。
《イザイア》と合わせて見たい白黒作品8点【画像付き】
①《小さな黒い木版画》1906年|黒い面が生む力強さ

《小さな黒い木版画》では、人物を太い黒の輪郭と背景の斜線で囲んでいます。人物の身体そのものは白く残され、周囲の刻み跡によって存在感が強調されています。フォーヴィスムの時代の激しい色彩を、別の方法で感じさせるような一作です。
②《小さな明るい木版画》1906年|黒い線と白い面の対比

同じ1906年の木版画でも、黒い部分と白い部分の配分が異なると、人物の姿勢や画面の動きの感じられ方が変わります。上の《小さな黒い木版画》と見比べてみてください。輪郭の強さは共通していますが、背景の余白には別の役割が与えられています。
③《首飾りと腕輪をつけた女性の胸像》1926年|細い線の美しさ

1906年の木版画と比べると、線はずっと細く繊細です。髪、目、腕、首飾りに使われる線の密度を変え、人物を柔らかく見せています。版画には、木版画の「削る・残す」とは別に、線そのものを刻んで描く方法があると実感できる作品です。
④《鏡の前の踊り子》1927年|少ない線で動きを伝える

振り向いた踊り子の身体と、鏡に映った姿が少ない線で描かれています。髪、胸元、衣装の飾りなど、細部に視線を誘導する線の強弱が見どころです。大胆に省略した部分があるからこそ、姿勢のしなやかさが伝わります。
⑤《夜(La Nuit)》1922年|紙の白さを生かした柔らかな線

黒い部分を大胆に広げた1938年の版画と対照的に、《夜》では白い紙の上に柔らかな描線が走ります。頭の後ろに回した腕、曲げた膝、身体の輪郭を少ない線でつなぎ、くつろいだ姿勢を表現しています。
⑥《春(Primavera)》1938年|黒地から白い線が浮かび上がる

黒一色の長方形から人物の顔と髪の線が浮かび上がります。背景の縦に伸びる模様と衣服の白い点が、少ない色数でも画面にリズムを生み出しています。輪郭を「描き足す」より、黒い面から白を「抜く」感覚が際立つ作品です。
⑦《ルーマニアの女(La Roumaine)》1938年|顔と装飾を一体化させる

目元と口の輪郭、頭髪、衣服やカーテンの線が同じ白色で描かれています。人物だけを強調せず、その周囲の装飾まで含めて一つの画面にするのは、マティスの絵画にも共通する特徴です。《春》と比べると、白線の太さや間隔にも違いがあります。
⑧《昼寝(La Sieste)》1938年|身体を数本の線へと単純化する

黒い画面の中で、ゆるやかに曲がる線が腕や身体、布の形を作り出しています。人物を写実的に塗り分けることなく、線の向きと長さで柔らかな姿勢が伝わってくる一枚です。
さらに深く見る|《偶像》の石版画と《ニンフ》の素描
木版画やリノカットとあわせて見比べたいのが、石版画の《偶像》と、鉛筆で描かれた《ニンフ》の習作です。どちらも黒やグレーの線による人物表現ですが、描線の性質が大きく異なります。
《偶像(L’Idole)》1906年|リトグラフならではの身体表現

《偶像》は1906年制作のリトグラフで、ニューヨーク近代美術館(MoMA)も同作の刷りを所蔵しています。石版画は、木版画のように版木を彫るのではなく、描いた線の質感を刷りに生かせる技法です。《小さな黒い木版画》と見比べると、同時期のマティスが媒体によって人物像の見せ方を変えていたことがわかります。MoMAの作品情報も参考になります。
《ニンフ(Nymphe)》1933年|完成した版画ではなく、線を探る素描

座る女性の肩や腕、脚の輪郭に、何本もの鉛筆線が重なっています。一本の線ですっきり描かれた版画と違い、姿勢や形を探しながら描いている過程が見えるのが魅力です。マラルメの『詩集』に関係する習作であり、版画そのものと制作のための素描を混同せずに見ると、マティスの線の表現をより深く理解できます。
今回の国立西洋美術館展は版画コレクションを中心とする展覧会です。この2作品についても、実際に出品されると確認されたものではありません。
リノカット・木版画・リトグラフ・エッチングの違いを知っておこう
| 技法 | どのように作る? | 注目するポイント |
| リノカット | リノリウム製の版を彫り、残した面にインクをつけて刷る | 黒い面に浮かぶ白い線、装飾と輪郭の関係 |
| 木版画 | 版木の不要な部分を彫り、残した面にインクを付けて刷る | 太い黒の面、白く抜けた部分、刻み跡 |
| リトグラフ(石版画) | 石や金属の版に脂性の描画材で描き、水と油の反発を利用して刷る | クレヨンや鉛筆に近い柔らかな線、濃淡 |
| エッチング | 金属板を防食処理して線を描き、酸で腐食させて溝を作り刷る | 均一で細い線、細部の描写 |
| ドライポイント | 金属板を針で直接引っかいて溝を作り刷る | 毛羽立ったように見える柔らかな線 |
印刷された紙の前で立ち止まってみると、単純な黒い線にも違いがあることに気づきます。技法の名前を覚えるより、太さ・にじみ・かすれ・線と線の間隔を見る方が、最初の鑑賞には役立ちます。
なぜマティスは、鮮やかな色だけでなく白黒に向き合ったのか
マティスの代表作《ダンス》や《赤いアトリエ》は強烈な色で知られます。しかし、マティスにとって重要だったのは色の多さそのものではなく、画面全体を調和させることでした。黒い線がひとつ増えれば、白い空間の形まで変わります。線と色は別々の技術ではなく、形を整理し、リズムを生み出すための手段だったと考えると理解しやすいでしょう。
代表作や生涯、フォーヴィスムから晩年の切り紙絵までの流れは、「アンリ・マティスとは?代表作10選と生涯」で画像付きで詳しく紹介しています。今回の展覧会を見る前にあわせて読むと、白黒表現の位置づけがつかみやすくなります。
チケットはどこで買える? 前売券・当日券の確認方法
一般2,300円、大学生1,300円、高校生1,000円という観覧料が案内されています。2026年10月25日時点では、前売券の発売日や販売窓口、日時指定制の有無、割引プランなどを確認できませんでした。販売開始後に詳細を追記します。
現時点でチケットの購入先を決め打ちせず、国立西洋美術館の公式展覧会ページを確認するのが確実です。発売前に販売価格や取扱サイトを断定する紹介には注意してください。
国立西洋美術館へのアクセス|上野駅から徒歩約1分

- 所在地:東京都台東区上野公園7-7
- JR上野駅「公園口」から徒歩約1分
- 京成上野駅から徒歩約7分
- 東京メトロ銀座線・日比谷線「上野駅」から徒歩約8分
- 美術館には専用駐車場がありません。公共交通機関での来館がおすすめです。
金曜日・土曜日は20時まで開館予定のため、仕事帰りにも立ち寄りやすい日があります。ただし入館は閉館30分前まで。混雑や入場方法の案内が出た場合は、必ず当日の情報を確認してください。
2027年春はアーティゾン美術館でもマティス作品を見られる?
東京・京橋のアーティゾン美術館では、2027年2月23日(火・祝)〜5月30日(日)に「ARTIZON NOW ひろがる、つながる、コレクション」が予定されています。美術館の作品紹介には、マティス《踊り子とロカイユの肘かけ椅子、黒の背景》(1942年)が掲載されています。
ただし、こちらはマティスだけの個展ではありません。「黒と白の詩学」の巡回会場でもありません。上野で版画、京橋でコレクションの絵画を見るという、別々の展覧会を組み合わせた鑑賞プランとして考えるのがよさそうです。最新の展示内容はアーティゾン美術館の公式ページで確認してください。
よくある質問
「マティス 黒と白の詩学」はいつからいつまで?
2027年3月20日(土)から7月19日(月・祝)まで、国立西洋美術館で開催予定です。
マティスの油彩画《ダンス》や《赤いアトリエ》は展示される?
2026年10月25日時点で、両作品の出品情報は確認できません。本展は版画のコレクションを中心に紹介すると案内されています。マティスの有名な油彩画が出品されると考えて予定を組まない方がよいでしょう。
この記事の木版画・リトグラフは、展覧会で見られる?
記事では《イザイア》を含む版画10点と、制作過程の参考になる鉛筆素描《ニンフ》1点を紹介しています。広報ビジュアルに使われた作品も含まれますが、掲載作品がすべて出品されると確定したわけではありません。公式の出品作リストが発表されしだい、実際に会場で見られる作品と区別して情報を更新します。
高校生や大学生の料金は?
公表されている観覧料は大学生1,300円、高校生1,000円です。小・中学生の取扱いや各種割引については、公式案内をご確認ください。
まとめ|マティスの「色」を知っている人にこそ見てほしい「線」の世界
フォーヴィスムの鮮やかな絵画で知られるマティスは、版画では色数を抑え、線と余白だけで人物の姿や動きを探りました。今回の展覧会は、よく知られた「色彩の魔術師」の別の側面に触れる機会になります。
まずは木版画の力強い線と、リトグラフ・エッチングの繊細な線を見比べてみてください。そして、展覧会の詳細が公開されたら、公式の出品作リストとチケット販売案内を確認しましょう。
参考資料・公式情報
- 国立西洋美術館|2027年マティス展
- インターネットミュージアム|会期・開館時間・料金
- American Federation of Arts|Matisse as Printmaker(過去の財団コレクション展)
- MoMA|Small Black Woodcut (1906)
- アーティゾン美術館|ARTIZON NOW
- 関連記事:マティスの生涯と代表作10選
最終情報確認:2026年10月25日。掲載した参考作品は展覧会の出品作品を示すものではありません。画像は作品・写真それぞれの出典とライセンスを確認し、ARTZUKANのメディアライブラリに保存しています。
