真っ白な雪が積もった松なのに、よく見ると雪そのものはほとんど描かれていません。
円山応挙の国宝《雪松図屏風》は、紙の白を塗り残し、墨と金泥だけで冬の光と空気を見せる作品です。写生を重視した応挙らしい「本物らしさ」と、屏風としての大胆な装飾性が同時に成立しています。
この記事では、《雪松図屏風》の何がすごいのか、雪をどう表現しているのか、左右の松の違い、そして2026〜27年にどこで見られるのかまで整理します。

作品データ:国宝《雪松図屏風》/円山応挙/江戸時代・18世紀(天明年間=1781〜89年頃とされる)/紙本淡彩(墨・金泥・金砂子)/六曲一双、各隻 縦約156×横約362cm/三井記念美術館蔵
《雪松図屏風》の最大の見どころは、「白い絵具を塗らずに雪を見せる」こと。紙の白を残し、墨の濃淡と金のきらめきで、雪の重さ・湿り気・冬の光まで感じさせています。
《雪松図屏風》とは?
《雪松図屏風》は、江戸時代中期の画家・円山応挙が描いた六曲一双の屏風です。現在は三井記念美術館が所蔵し、国宝に指定されています。
右隻には太く直線的な幹をもつ松、左隻には曲線を描きながら枝を広げる松が配されています。左右で形を変えながら、一対の屏風全体で雪景色の空間をつくっています。
応挙について先に知りたい方は、円山応挙展2026-27の見どころ記事もあわせてどうぞ。写生から大画面作品へどう発展したのかをまとめています。
2026年は、江戸東京博物館の特別展「円山応挙 リアルの先へ 空間革命」(11月28日〜2027年1月24日)にも《雪松図屏風》が出品されます。ただし展示は11月28日〜12月6日の期間限定です。12月12日からは、所蔵館の三井記念美術館で公開されます。
円山応挙展の前売券(一般1,900円)
販売期間は2026年10月6日(火)10:00〜11月27日(金)23:59。会期は11月28日〜2027年1月24日です。スマホの画面提示で入場するチケットなので、印刷やスクリーンショットでは入場できません。
見どころ1|雪を「描かない」ことで雪を見せる
いちばん驚くのは雪の描き方です。
枝に積もった白い雪は、白い絵具を厚く塗ったものではありません。紙そのものの白を残し、その周囲を墨で描くことで雪の形を浮かび上がらせています。
つまり、僕たちが「雪」と見ている部分の多くは、実際には何も描かれていない場所です。描く対象を直接塗るのではなく、周囲を描いて存在を感じさせる。余白が単なる空白ではなく、物質として働いています。
見どころ2|墨だけで松の立体感をつくる「没骨」
松の幹も、輪郭線を引いてその内側を塗る方法ではありません。三井記念美術館は、輪郭線を使わず形を表す「没骨(もっこつ)」の技法を特徴として挙げています。
幹の中心と外側で墨の濃淡を変え、にじみや筆の勢いを使うことで、円筒形の太さを感じさせています。輪郭をはっきり描いていないのに、松が画面の手前へ迫ってくるように見えるところが応挙らしい写実です。
見どころ3|右は力強く、左はしなやか
左右の松は同じ形ではありません。記事冒頭の画像が右隻、下の画像が左隻です。
- 右隻:太い幹がまっすぐ立ち上がり、画面の外へ伸びていくような力強さ。
- 左隻:2本の松の幹と枝が曲線を描き、松全体の姿が見える柔らかな構成。

左右を対称にするのではなく、性格の違う右隻と左隻の松を向かい合わせることで、屏風を開いた空間にリズムが生まれます。応挙は「木を正確に描く」だけでなく、屏風を置いた部屋全体でどう見えるかまで考えていたことが分かります。
見どころ4|金泥と金砂子が「冬の光」をつくる
雪景色というと白と黒だけの静かな画面を想像しますが、《雪松図屏風》には金が使われています。
画面には金泥が刷かれ、下部には金砂子が散らされています。光を受けると金がわずかに反射し、雪面に陽光が差しているように見えます。三井記念美術館は、この効果が祝祭的な気分も演出していると説明しています。
静かな冬景色なのに冷たすぎない。新春の晴れやかさを感じるのは、この金の働きが大きいのでしょう。
なぜ「写生の画家」応挙の代表作なのか
円山応挙は、実際のものを観察して描く「写生」を重視した画家として知られています。ただし、《雪松図屏風》を見ると、目の前の景色を写真のように写しただけではないことが分かります。
松の枝ぶりや雪の重みは観察に基づいていますが、左右の配置、余白、金泥、屏風の折れによって、現実の風景より整理された空間になっています。
「よく観察すること」と「見せるために構成すること」。この二つを両立したところに、応挙の新しさがあります。
《雪松図屏風》はどこで見られる?
所蔵先は東京・日本橋の三井記念美術館です。ただし常設展示ではなく、毎年いつでも見られる作品ではありません。

2026〜27年の冬は、《雪松図屏風》を見られる機会が2回あります。
江戸東京博物館「円山応挙 リアルの先へ 空間革命」:11月28日〜12月6日
江戸東京博物館のリニューアル記念特別展では、応挙の画業を年代順にたどる展示のなかで、天明期の作品として《雪松図屏風》が並びます。展示は11月28日から12月6日までの期間限定で、11月30日(月)は休館のため、実際に見られるのは8日間です。
展覧会自体は2027年1月24日まで続き、兵庫・大乗寺の障壁画を中心に120点を超える応挙作品が並びます。見どころとチケットの種類は円山応挙展2026-27の見どころ・チケットにまとめています。
三井記念美術館「国宝 雪松図と四季」:12月12日〜2027年1月30日
所蔵館の三井記念美術館では、2026年12月12日から2027年1月30日まで「国宝 雪松図と四季」が開催され、《雪松図屏風》が公開されます。毎年、年末年始に同館で公開される恒例の展示です。
「国宝 雪松図と四季」では何を見る?
2026〜27年の展覧会は《雪松図屏風》だけを展示する企画ではありません。三井記念美術館の書画・工芸品を通して、春夏秋冬や雨、雪、風などの気象をどう表現してきたかを見る構成です。
たとえば、応挙の弟子・山口素絢による雪景色では白い絵具を使うなど、《雪松図屏風》とは違う方法で雪を表しています。並べて見ると、応挙が「塗らない白」を選んだ特殊さがよく分かります。
まとめ|何も描かない場所まで絵にした
《雪松図屏風》の面白さは、技巧が派手だからではありません。むしろ逆です。
- 紙の白を残して雪にする
- 輪郭線を使わず墨の濃淡で幹を立体化する
- 左右で異なる松を配置して空間をつくる
- 金泥と金砂子で雪に反射する光を表す
描き込むのではなく、描かない場所まで計算して現実感をつくる。それが《雪松図屏風》が国宝として見続けられている大きな理由の一つです。
