一人の表現が、別の一人の世界を変える。
私たちは、それぞれの価値観を通して世界を見ています。一人ひとりが見ている世界は決して同じではありません。
それまで当たり前だと思っていた価値観から、想像もしなかった考え方や、生き方の可能性に気づかされる。自分が知っていた世界は、世界のほんの一部にすぎなかったことを知る。ときに一つのアート作品との出会いが、その世界を根底から変えてしまうことがあります。
一人の表現が、別の一人の世界を変え、ゆくゆくは世界そのものを変えることもある。
ARTZUKANは、そんなアートの可能性と、世界を変えてきた表現者たちへの尊敬から生まれました。
個人の表現が、社会を変える
自らの表現を徹底して追究することで、それまでの常識や社会の価値観に大きな影響を与えてきた人々がいます。
ベートーヴェンは、人間の精神や自由への希求を音楽に刻み、後世の音楽のあり方に大きな影響を与えました。ピカソは、絵画におけるものの見方そのものを変革し、《ゲルニカ》では戦争の暴力と不条理に向き合いました。岡本太郎は、既成の美意識や権威に挑み、アートとは何か、表現するとはどういうことかを社会に問いかけました。坂本龍一は、音楽の可能性を探り続けるとともに、戦争や環境問題など、現実の社会が抱える課題にも向き合いました。
彼らに共通するのは、単に優れた作品を生み出したということだけではありません。自分自身の表現を追究し、それを社会に提示することで、それまでになかった世界の見方や、新しい価値観を生み出してきたことです。
個人の内側から生まれた表現が、他者の思想や価値観に影響を与え、世界の捉え方を変えていく。
その影響が時代を超えて広がり、ときには社会の常識や、基準そのものを書き換えてしまうことがあります。
表現することの自由と、人間の可能性
アートの価値は、作品の価格や知名度、商業的な成功で決まるものではありません。社会から求められるものを作ることと、自らの表現によって社会に新しい価値を提示することは、必ずしも同じではありません。
それまでになかった表現を形にし、既存の常識や権威に疑問を投げかけること。戦争や差別、社会の不条理といった大きな問題に向き合うこと。新しい世界の見方を提示すること。
アーティストたちは、そうした試みを重ねながら、人間の想像力と表現の自由を押し広げてきました。その挑戦は、必ずしも同時代の社会に理解されるとは限りません。
生前には十分な評価を得られなかった表現もあれば、長い年月を経て、その革新性が認められた表現もあります。アートは、社会がすでに知っている価値を再現するだけのものではありません。それまでなかった価値を創造し、人間の可能性そのものを広げていくものでもある。私は、そう考えています。
世界が変わることと、一人の世界が変わること
アートが社会に与える影響は、必ずしもその規模だけで測れるものではありません。
ある表現は、時代を象徴するものとなり、文化や社会の価値基準を変えていきます。一方で、広く知られることのない作品が、たった一人の人生を、少しだけ変えることもあります。
私は、そのどちらにもアートの価値があると考えています。社会とは、そこに生きる一人ひとりと切り離して存在するものではありません。それが伝播し新しい思想や表現を生み、やがて社会全体の変化につながることもあるでしょう。
一人の世界が変わることと、世界が変わることは、異なる規模の出来事でありながら、アートの作用から生まれたと言えると思います。
違うからこそ面白い
アートに惹かれる理由には、もう一つ、ごく個人的な感覚があります。自分とはまったく違う考え方や、自分には想像もつかない表現に出会うことが、純粋に心地よいのです。
なぜ、この人はこんなことを考えたのだろう。なぜ、こんな世界の見方ができるのだろう。理解できないからこそ、もっと知りたくなることもあります。
日本の教育や社会の組織では、違いが生む違和感が排除されるということも少なくありません。アートの世界では、常識から外れることや、ほかの誰とも違うことが、新しい見方を生み出すきっかけになります。このような違いは、必ずしも修正したり、なくしたりするべきものではなく、むしろ見つめるべき価値のあるものです。
そして、そんな表現に触れていると、安心することがあります。「こんな考え方でもいいんだ」「こんな生き方でもいいんだ」「人と違っていてもいいんだ」と。誰かの自由な表現に出会うことで、自分自身も、世の中の常識や他人の価値観に必ずしも合わせる必要はないのだと思える。人間はそれぞれ違うからこそ、面白い。そう思わせてくれるところにも、アートの魅力を感じています。
ARTZUKANが伝えたいこと
ARTZUKANは、世界の見方を変え、人間の可能性を広げてきたアーティストへの尊敬と敬意から生まれた、美術・芸術メディアです。
時代や地域、ジャンルを問わず、さまざまなアート作品と、その背景にある思想や歴史を紹介していきます。作品を知ることは、その作品を生み出した人間の思想や、世界の捉え方に触れることでもあります。
ARTZUKANは、作品や作家について知ることを通して、読者一人ひとりが自分自身の考えを深められる場所でありたいと考えています。
アートとの出会いから、新しい世界へ。そして次世代へとつながる
ある表現の歴史を知ることで、今の社会や、自分自身の価値観を違う角度から捉えられるようになる。そんな経験が、私たちの世界を少しずつ広げていきます。
ARTZUKANが目指しているのは、アートについての情報を届けることだけではありません。先人たちが切り開いてきた新しい世界の見方を、次の誰かにつないでいくことです。
一つの記事が、まだ知らなかった作品との出会いにつながる。その出会いが、新しい疑問や思想を生む。そして、世界が、それまでとは違うものになる。
一人の表現が、世界を変える。
その可能性を信じ、世界を変えてきた表現者たちへの敬意を忘れずに、ARTZUKANはアートの魅力を発信し続けていきます。
編集長について
武蔵野美術大学造形学部油絵学科卒業。大学では油絵を学び、就職氷河期といわれた時代、卒業後は美術の世界から離れ、なんとか企業でのデザインやマーケティングの仕事に携わってしがみついてきました。それでも、心のどこかで、自らの表現で、時代の常識や社会の価値観に挑んできたアーティストたちへの尊敬は変わりませんでした。(壮大な自己満足の世界に畏怖すら覚えていました)
個人の表現をなぜ続けることができるのか。その結晶として、なぜ他者の思想や世界の見かたを変えることができるのか。そして、なぜ一人の人間が生み出した表現が、時代を超えて受け入れられ、社会の価値観そのものを変えることがあるのか。
そうした問いと関心から、ARTZUKANを運営しています。その思いを原点に、これからも作品と表現者たちの軌跡を伝えていきたいと考えています。
