【初心者向け】葛飾北斎とは?代表作・特徴・富嶽三十六景の見どころをやさしく解説

当ページのリンクには一部、広告が含まれています。
北斎《神奈川沖浪裏》
目次

1分でわかる葛飾北斎

「北斎=大波」のイメージは強いけど、実は北斎の面白さはそこだけじゃありません。
北斎は、風景・人物・妖怪・植物・日常のしぐさまで、世界を観察して描く力が異常に高い絵師でした。

葛飾北斎は、江戸の町に生きる人の目で、世界の迫力を描き切った絵師です。神奈川沖浪裏の巨大な波を見た瞬間、ただの風景ではなく、こちらの体感そのものが揺さぶられる。北斎がすごいのは、絵がうまいだけではなく、見る人の感情に訴える力があることです。

北斎の魅力は、大きく3つにまとまります。

  • 1つ目、一瞬をつかむこと。波が崩れる直前、雷が落ちる刹那、風が切り替わる一拍。その刹那を表現しました。
  • 2つ目、構図の斬新さです。ぐっと寄る、見上げる、画面の外へはみ出す。まるでカメラのように視点を操り、風景を体験に変えます。
  • 3つ目、富士山をテーマにした富嶽三十六景。富士はただの背景ではなく、季節や天気、人の営みの中で姿を変える主役になります。

当時の江戸の庶民には富士講という信仰の集まりが広がり、富士を拝む 登ることでご利益を得る感覚がありました。平和で暮らしが安定すると、巡礼や物見遊山が盛り上がります。富士参詣は信心半分、旅行半分の大イベントになっていきました。このような時代背景の中、北斎は富士を描きました。富嶽三十六景は人気を受けて追加作が生まれ、全46図になりました。

三十六景なのに四十六図ある理由 表富士と裏富士
富嶽三十六景は、最初は三十六図として出版されましたが、江戸で大ヒットしたため、あとから十図が追加され、合計で四十六図になりました。このとき、最初の三十六図を表富士、追加の十図を裏富士と呼ぶことがあります。見分け方の目安のひとつが輪郭線で、表富士は輪郭線にも藍を使う図が多く、裏富士は輪郭線が墨になっている図が多いと言われます。

北斎って、当時の江戸だとどんな存在だったの?

渓斎英泉《葛飾北斎肖像》1840年代頃
渓斎英泉《葛飾北斎肖像 / Portrait of Katsushika Hokusai》1840年代頃
Photo: Artanisen (Artanisen), via Wikimedia Commons
License: Creative Commons Public Domain Mark 1.0 (PDM)

江戸は当時の世界でも最大級の百万人都市で、十八世紀には人口が百万人規模に達したとされ、ロンドンやパリと並ぶ規模として語られます。政治の中心である一方、町には出版や見世物などの大衆文化が根づき、浮世絵や絵本のようなコンテンツが庶民に広く届く土壌がありました。

北斎は、当時の江戸でいちばん目立つタイプの絵師でした。いまの美術館に飾られる名画というより、町の人が手に取って楽しむ絵を作り、流行を生み、話題まで作る人です。当時の浮世絵は、庶民の生活に近いメディアでした。役者絵や名所絵、流行のデザインなどが刷られ、版元が企画し、絵師が描き、彫り師と摺り師が仕上げて広く届ける。北斎は、その分業の中心で、次々に当たる絵を出せる人でした。

さらに北斎は、絵を描くだけで終わらず、人が集まる場で巨大なだるま絵を描くような、今でいうパフォーマンスもして、江戸の空気を沸かせたと言われます。

現代にたとえるなら、売れっ子のクリエイティブディレクター&クリエイターです。イラストレーターであり、映像監督であり、広告のアートディレクターでもある人です。作品そのものの強さに加えて、企画力と話題性まで含めて、街の感覚を動かす存在でした。

項目内容
名前葛飾北斎(かつしか ほくさい)
生没年1760–1849
活動江戸時代後期
ジャンル浮世絵(錦絵・版本・挿絵など)
得意分野風景(富士)、人物、動植物、戯画(ユーモア)
代表キーワード富嶽三十六景/神奈川沖浪裏(大波)/北斎漫画

北斎は何がすごいの? 北斎を初めて楽しむなら

北斎のすごさは、見る人の体験そのものを変えるところです。大きく3つに絞るとこうなります。

  • 一瞬をつかむのがうまい:波が崩れる直前、雷が落ちるその瞬間。北斎は自然が一番怖くて一番美しいタイミングをつかんで、絵の中に固定します。だから見た瞬間に体が反応するような迫力が出ます。
  • 見せ方が現代的:上から見下ろす、極端に寄る、遠景を小さく置くなど、構図が写真や映画のように大胆です。だから今見ても古く感じません。
  • 情報が多いのに、スッと読める線:波、雲、雨、山肌など、細部はぎっしりなのに見やすい。線の強弱とリズムで複雑な自然を整理しているからです。迫力も美しさも、線一本で成立させる職人技です。

北斎を初めて楽しむなら、まずは富嶽三十六景のこの3枚。
神奈川沖浪裏 → 凱風快晴 → 山下白雨
恐怖と美、静けさ、自然のドラマ。富士山という1つのモチーフでありながら、北斎表現のふり幅が一気にわかります。

このページは、北斎の代表作と見どころをやさしく整理し、富嶽三十六景をより面白く見るためのきっかけとして活用できます。

代表作① 神奈川沖浪裏(かながわおき なみうら)

葛飾北斎《神奈川沖浪裏》1830-1832年頃
葛飾北斎《神奈川沖浪裏 / The Great Wave off Kanagawa》1830-1832年頃
Photo: メトロポリタン美術館 (The Met) (メトロポリタン美術館), via Wikimedia Commons
License: Public Domain Mark 1.0 (PDM)
項目内容
通称グレート・ウェーブ(大波)
ざっくり年代1830年代ごろ(富嶽三十六景の一枚)
見どころ波の「爪」のような形/小舟と人の小ささ/遠景の富士の静けさ
何がすごい?「一瞬の恐怖」と「風景の美しさ」が同時に来る構図

鑑賞メモ

  • 波の先が「爪」や「指」みたいに曲がっていて、波が生き物っぽい
  • 船は細長く、現場の揺れが想像できる
  • 富士が遠く小さく、逆に「動かない強さ」が出ている

代表作② 凱風快晴(がいふう かいせい)

葛飾北斎《凱風快晴(赤富士)》1830-1832年頃
葛飾北斎《凱風快晴(赤富士) / Fine Wind, Clear Morning (South Wind, Clear Sky)》1830-1832年頃
Photo: Petrusbarbygere (Petrusbarbygere), via Wikimedia Commons
License: Public Domain Mark 1.0 (PDM)
項目内容
通称赤富士
ざっくり年代1830年代ごろ(富嶽三十六景の一枚)
見どころ赤く染まる富士の量感/山肌のグラデーション/青空との強いコントラスト
何がすごい?情報量が少ないのに、「朝の澄んだ空気」と「富士の存在感」を一撃で伝える構図

代表作③ 山下白雨(さんか はくう)

葛飾北斎《山下白雨》1830年頃
葛飾北斎《山下白雨 / Rainstorm beneath the summit (Sanka hakū)》1830年頃
Photo: Petrusbarbygere (Petrusbarbygere), via Wikimedia Commons
License: Public Domain Mark 1.0 (PDM)
項目内容
通称黒富士(雷雨の富士)
ざっくり年代1830年代ごろ(富嶽三十六景の一枚)
見どころ黒く沈む富士の量感/稲妻の鋭いジグザグ/空の暗雲と光の切り替わり
何がすごい?一瞬の天候変化(雷雨の迫り方)を絵の中で体験させる構図

そのほかにも魅力的な作品がずらりー富嶽三十六景

深川万年橋下(ふかがわ まんねんばしした)

大きな橋のアーチで富士の「額縁」にする構図が強い。

葛飾北斎《富嶽三十六景 深川万年橋下》1830-1832年頃
葛飾北斎《富嶽三十六景 深川万年橋下 / Under the Mannen Bridge at Fukagawa》1830-1832年頃
Photo: Hiart (Hiart), via Wikimedia Commons
License: Public Domain Mark 1.0

尾州不二見原(びしゅう ふじみがはら)

巨大な桶の輪の中に、小さな富士を収める「発明」みたいな構図。水田の扱いもデザイン的。

葛飾北斎《富嶽三十六景 尾州不二見原》1830年頃
葛飾北斎《富嶽三十六景 尾州不二見原 / Bishū Fujimigahara》1830年頃
via Wikimedia Commons
License: Public Domain Mark 1.0

甲州石班沢(こうしゅう かじかざわ)

崖上の漁師+荒波+遠景の富士。人と自然の対比が気持ちいい。波の線と富士の輪郭のリズムが気持ちいい。

葛飾北斎《甲州石班沢》1830年頃
葛飾北斎《甲州石班沢 / Kajikazawa in Kai Province》1830年頃
Photo: Petrusbarbygere (Petrusbarbygere), via Wikimedia Commons
License: Public Domain Mark 1.0

常州牛堀(じょうしゅう うしぼり)

大きな舟の斜めの迫力と、奥の富士の静けさの対比。色面の使い方が斬新。

葛飾北斎《常州牛掘》1830年頃
葛飾北斎《常州牛掘 / Ushibori in Hitachi Province》1830年頃
Photo: Petrusbarbygere (Petrusbarbygere), via Wikimedia Commons
License: Public Domain Mark 1.0

五百らかん寺さゞゐどう(ごひゃくらかんじ さざいどう)

高楼から人々が富士を眺める「人間観察」が面白い。

葛飾北斎《富嶽三十六景 五百らかん寺さざゐどう》1830-1832年頃
葛飾北斎《富嶽三十六景 五百らかん寺さざゐどう / Sazai hall – Temple of Five Hundred Rakan》1830-1832年頃
Photo: Petrusbarbygere (Petrusbarbygere), via Wikimedia Commons
License: Public Domain Mark 1.0

東都浅草本願寺(とうと あさくさ ほんがんじ)

寺の屋根の曲線+凧+遠景の富士。構図がポスターのような1枚。この雲は日本昔ばなしのアニメでも描かれていたものに近い?

葛飾北斎《富嶽三十六景 東都浅草本願寺》1830-1832年頃
葛飾北斎《富嶽三十六景 東都浅草本願寺 / Hongan-ji at Asakusa in Edo (Tōto Asakusa Honganji)》1830-1832年頃
Photo: Petrusbarbygere (Petrusbarbygere), via Wikimedia Commons
License: Public Domain Mark 1.0

甲州三坂水面(こうしゅう みさか すいめん)

湖面に映る(逆さ)富士の「静けさ」が美しい。デザインの目線でみても、単純化した形が今の象徴的な富士のアイコンに近いものがある。

葛飾北斎《富嶽三十六景 甲州三坂水面》1830年頃
葛飾北斎《富嶽三十六景 甲州三坂水面 / Kōshū Misaka suimen (Mount Fuji reflects in Lake Kawaguchi, seen from the Misaka Pass in Kai Province)》1830年頃
Photo: Petrusbarbygere (Petrusbarbygere), via Wikimedia Commons
License: Public Domain Mark 1.0

駿州江尻(すんしゅう えじり)

突風で紙が舞う「風の見える化」。動きが北斎らしい。瞬間を切り取る漫画のような1枚。あくまでも富士はラインで表現というのがシンプルで斬新。少ない色数で動きの臨場感と奥行きを感じさせる構成力にも感嘆する。

葛飾北斎《駿州江尻》1830年頃
葛飾北斎《駿州江尻 / Ejiri in Suruga Province(Sunshū Ejiri)》1830年頃
Photo: Petrusbarbygere (Petrusbarbygere), via Wikimedia Commons
License: Public Domain Mark 1.0

本所立川(ほんじょ たてかわ)

材木のリズムで画面が気持ちいい。都市の仕事と富士を掛け合わせた、当時の生活を窺わせる1枚。黄色と青の対比が美しい。

葛飾北斎《富嶽三十六景 本所立川》1830年頃
葛飾北斎《富嶽三十六景 本所立川 / Honjo Tatekawa, the timberyard at Honjo》1830年頃
Photo: Petrusbarbygere (Petrusbarbygere), via Wikimedia Commons
License: Public Domain Mark 1.0

江戸日本橋(えど にほんばし)

江戸の中心の賑わいと、奥に置かれた富士の対比。この作品は 橋そのものを大きく描かず、日本橋川の両岸に並ぶ白壁の蔵と強い遠近法、江戸の中心=日本橋」を示す構図になっています。

葛飾北斎《江戸日本橋》1830年頃
葛飾北斎《江戸日本橋 / Nihonbashi bridge in Edo》1830年頃
Photo: Petrusbarbygere (Petrusbarbygere), via Wikimedia Commons
License: Public Domain Mark 1.0

隅田川関屋の里(すみだがわ せきやのさと)

千住周辺の川・土手・往来の中に橋や渡河の気配が出ています。馬のスピード感とキリの動きが漫画的。

葛飾北斎《隅田川関屋の里》1830年頃
葛飾北斎《隅田川関屋の里 / The village of Sekiya on the Sumida River》1830年頃
Photo: Petrusbarbygere (Petrusbarbygere), via Wikimedia Commons
License: Public Domain Mark 1.0

北斎作品を10倍楽しむ「鑑賞のコツ」

コツ1:いちばん大きい形(主役)と人々の様子を探す

波なのか、富士なのか、人なのか。最初の3秒で主役が決まる構図。巨大な自然と日常の人々の様子との対比を観察する。

コツ2:線の向きで「風・水・速さ」を読む

北斎は線に“方向”がある。線が揃うと風が吹き、線が暴れると水が暴れる表現を使っており、ダイナミックな自然を体感する。

コツ3:同じテーマを並べて違いを見る

富士だけ、雨だけ、波だけ。北斎は比較した瞬間に違いが面白く出ます。いろんな作品を比較してみましょう。

【北斎漫画】富嶽三十六景だけじゃない

富嶽三十六景で北斎を知ったら、次は北斎漫画も触れておくと理解が一段深くなります。北斎漫画は、いまの物語マンガではなく、観察と発想が詰まった図案集のようなものです。人のしぐさ、働く動き、動物、妖怪、道具、風景まで、江戸の世界が線のスピードで描かれています。初期に十編が出て、その後にさらに五編が追加されて全十五編になりました。最終の十五編は北斎の没後に刊行されたものとしても知られています。

北斎漫画の面白さは、北斎が何を見て、どう線に変えるのかが、いちばん素直に出ているところです。だから富嶽三十六景を見返したときに、波や雲や雨の線が、ただの装飾ではなく、体感を作るための線だったとわかります。北斎の線がスッと読める理由を知りたいなら、北斎漫画は近道です。

そしてこの観察の目は、富嶽三十六景の色にもつながります。

葛飾北斎《北斎漫画 第八編(扉絵・本文)》1817
葛飾北斎《北斎漫画 第八編(扉絵・本文) / Hokusai Manga, vol. 8 (title page & inner page)》1817
Photo: Hamelin de Guettelet (Hamelin de Guettelet), via Wikimedia Commons
License: Creative Commons Public Domain Mark 1.0 (PDM)

富嶽三十六景の青が特別に見える理由 ベロ藍と北斎ブルー

富嶽三十六景の海や空の青が強く印象に残るのは、ベロ藍という顔料を効果的に使っているからです。ベロ藍は海外から入ってきた人工の青で、それまでの藍より発色が強く、色あせもしにくいのが特徴でした。

ベロ藍はベルリン藍の略で、発色が強く色あせしにくい新しい青でした。江戸後期に手に入りやすくなったことで、北斎は海と空の表現に積極的に使い、富嶽三十六景の青の印象を決定づけました。北斎が使い始めた理由は、発色が強く、色あせしにくく、値段が下がって量産しやすくなったなど、当時の版元や摺師にとっても、使うメリットが大きかったからです。

北斎はこの青を波や空に大胆に使い、シリーズ全体の空気感を決定づけました。その象徴的な青は、北斎ブルーとも呼ばれます。

美術館で見る:北斎を味わうなら「すみだ北斎美術館」を拠点にする

北斎は墨田区周辺で生まれ育ち、ゆかりが深いことで知られます。そこにあるのがすみだ北斎美術館
開館時間・休館日などの基本情報は公式の案内が確実です。

  • おすすめ:すみだ北斎美術館(北斎のゆかりが深いエリア)
  • 所要時間目安:サクッと60分/じっくり90〜120分
  • 良い点:現物(または高精細)で線の強さがわかる

すみだ北斎美術館 サイト >>

よくある質問(FAQ:図鑑の補足)

Q1. 北斎は「大波」以外に何が有名?

A. まずは富嶽三十六景(富士をテーマにしたシリーズ)。その次に北斎漫画(スケッチ・発想の宝庫)がおすすめです。

Q2. 富嶽三十六景って、実際は何枚あるの?

A. 一般に「36景」と呼ばれますが、追加が加わり全46図として紹介されることが多いです。

目次