アヴィニョンの娘たちとは?ピカソの挑戦。徹底解説・意味・見どころをやさしく解説

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パブロ・ピカソ《アヴィニョンの娘たち(Les Demoiselles d’Avignon)》

ピカソの代表作《アヴィニョンの娘たち》(1907)は、20世紀美術を一気に更新し、いわゆるプロト=キュビズムの転換点となりました。

伝統的な遠近法や人体表現を壊し、形を“面”として再構成する方法へ舵を切った歴史的転換点です。ピカソ25歳で制作に取り掛かりました。本記事では、制作背景・構図・見どころ・所蔵情報を、初学者にもわかる言葉で整理します。

この記事でわかること

  • 《アヴィニョンの娘たち》の意味と「なぜ有名なのか」
  • 構図・モチーフ・技法の鑑賞ポイント
  • 所蔵美術館(MoMA)・チケット・おすすめ図録/本の情報

初心者から受験生、訪問予定の人まで、観る前に押さえておきたい要点をまとめました。関連図録・おすすめ本も紹介します(※リンクはアフィリエイトを含みます)。

《アヴィニョンの娘たち》とは?:意味と背景 ― キュビズムの扉を開いた一作

1907年、パリ。 ピカソはアトリエで、大型カンヴァスに五人の裸婦を角ばった面で描き、複数の視点を同時に画面へ持ち込みました。右側の二人の仮面的な顔には、当時パリで注目されていたアフリカ彫刻イベリア彫刻の影響が色濃く反映。伝統的な美の基準と遠近法を意図的に破壊し、後のキュビズムへ直結する造形言語を提示しました。

ピカソが《アヴィニョンの娘たち》を描いた理由は、セザンヌ回顧(1907)の衝撃とマティスらへの対抗心を背景に、「色ではなく形で絵画を作り替える」ため、都市の欲望と不安を可視化するため、そして前衛の主導権を自らの手に取り戻すためでした。完成当初、友人の画家たちでさえ当惑したと言われるほど急進的でしたが、のちに20世紀美術の出発点の一つとして位置づけられます。

アフリカ彫刻イベリア彫刻の影響

作者不詳(ファン族)《四つの顔の兜状仮面(ングンタング)》19世紀
作者不詳(ファン族・ガボン)《四つの顔の兜状仮面(ングンタング)》19世紀
Photo: Ji-Elle (Ji-Elle), via Wikimedia Commons
License: CC BY-SA 4.0

ピカソ《アヴィニョンの娘たち》 基本情報

項目内容
タイトルアヴィニョンの娘たち(Les Demoiselles d’Avignon)
作者パブロ・ピカソ(Pablo Picasso)
制作年1907年(ピカソ 25~26歳)
技法油彩/カンヴァス
サイズ約 244 × 234 cm
所蔵The Museum of Modern Art(MoMA), New York
位置づけプロト=キュビズム(キュビズム初期)
制作地パリ

なぜ有名なのか? 6つの理由

「アヴィニョンの娘たち」は、登場前と登場後でアートの制作方法や絵画の見方を大きく変えたからです。

登場前は遠近法で奥行きを再現する「窓の絵」から、登場後、平面を強調し複数視点を同時に重ねる絵へ。
自然な人体表現から、身体を幾何学的な面に分割・再構成し、人物と背景も等価にぶつける構成へと世の中の見方が変化しました。
「再現」中心の伝統を壊して「見る仕組み」の実験へ舵を切り、キュビスム=モダンアートの起点になった作品です。

  1. 遠近法の崩壊と複数視点:奥行きを平面へ圧縮し、同時に複数の角度を提示。
  2. 人体の面分割(フェイセット):身体を幾何学的な面へ分解し再構成、のちのキュビズムの基本語彙に。
  3. 仮面的顔貌:右側の二人の顔に民族彫刻の造形を導入。西洋の美の規範を内側から更新。
  4. 背景=舞台の等価化:人物と背景(カーテンや布)が同じ強度でぶつかり、画面全体の平面化が進む。
  5. 制作史的インパクト:1907年を“モダンアートの元年”級に語らせる転換点。ブラックとの共同実験へ接続。
  6. 美術館教育と教科書的知名度:MoMAのコレクションとして教育・展示で繰り返し扱われ、世界的に常識化。

「アヴィニョンの娘たち」が世に出た頃は、「衝撃で賛否」が当時の空気で、多くは当惑・拒否、少数の前衛(アポリネール、カーンヴァイラー、のちのブラックなど)が“新しさ”を嗅ぎ取りました。賛否は割れつつも「ここから新しい時代が始まる」という直感を与えた作品です。

構図・色彩・技法のポイント

  • 面で組む人体:輪郭は鋭く、量感は平面の組み合わせで出す。
  • 視線のズレ:五人の顔・肩・腰の向きが意図的に不一致。視点の混在を体感できる。
  • 仮面の導入:右端二人の顔にアフリカ彫刻/イベリア彫刻の影響。異化効果で“見慣れ”を破る。
  • 背景の力:布の折れやカーテンの線が人物と同格の存在感で、空間を押しつぶす。
  • 色彩:温・冷を交差させつつも、輪郭と面の関係が主役。色は構成を助ける役回り。

制作プロセスと準備素描:発想の“転覆”が起きた瞬間

本作には多数の準備素描・エチュードが残り、当初は医学生や水差しなど別モチーフも検討されました。過程のドローイングを見ると、古典的裸婦から面分割の人体へと徐々に踏み込んだことがわかります。
また、同時代のブラックとともに形態の分解・再構成を探ることで、分析的キュビズムへ向かう地ならしが完了しました。

どこにある? 所蔵と展示(MoMA ニューヨーク)

  • 所蔵The Museum of Modern Art(MoMA), New York
  • 展示:常設で見られる機会が多いものの、展示替え・貸出により非展示期間が発生することがあります。渡航前に公式サイトの展示情報を要確認。
  • チケット:混雑緩和のため時間指定のオンライン予約が便利。音声ガイドの有無も事前チェック推奨。

図録・本のおすすめ

1907年の衝撃作《アヴィニョンの娘たち》を、制作経緯・下絵・同時代の文脈から解きほぐす解説書です。
セザンヌやアフリカ彫刻の影響、遠近法の解体と面分割→キュビスム誕生までを図版とともに整理。
「なぜこの一枚が20世紀を変えたのか」を要点で腑に落とし、展覧会や授業の予習・復習にも最適です。

ピカソという作家:20世紀の“規範変更者”

ピカソは生涯を通じて画風を変え続け、時代ごとに既存の規範を更新しました。《アヴィニョンの娘たち》はその代表例で、“見え方”そのものを組み替える提案でした。以後の《ゲルニカ》(1937)や分析的/総合的キュビズムの展開を理解するうえでも、起点として押さえておきたい一作です。

よくある質問(FAQ)

Q. どうして顔が“仮面”みたいなの?
A. 当時のアフリカ彫刻・イベリア彫刻の造形から学んだ要素で、西洋の美の基準を相対化するための異化効果として使われました。

Q. 遠近感が崩れて見えるのはなぜ?
A. 複数視点を同一画面で同時に扱い、奥行きを平面化しているためです。のちのキュビズムの核心に繋がります。

Q. 実物はどこで見られる?
A. ニューヨークのMoMA所蔵。展示替えがあるため、来館前に公式サイトで最新展示状況を確認しましょう。

Q. 何がそんなに革新的?
A. 人体表現・遠近法・美の規範をまとめて更新し、20世紀美術の出発点の一つになったことです。

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