西洋美術史1700年~1900年(ロココからプリミティビズムまで):有名画家の絵画の世界〜20世紀前半アート編

アルノルト・ベックリン, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で
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目次

ロココ(Rococo)年代: 約1700-1780

ロココとは

ロココ様式は、18世紀初頭から中期にかけて、特にフランスで発展した美術・建築の流れを指します。この時代には、バロックの堅苦しさから解放され、より軽やかで、個人的な快楽を追求する傾向が見られます。ロココは、繊細な曲線や自然にインスピレーションを得た装飾が特徴で、色彩は明るく、空間は軽快に扱われました。絵画、彫刻、建築だけではなく、家具や装飾品にもこの様式が反映されています。

ロココの歴史と社会背景

ロココ様式は、1700年頃にフランス王ルイ14世の死後に始まり、ルイ15世およびルイ16世の治世を通じて発展しました。この時代、社会は厳格なバロック様式からの転換を迎え、より自由で感覚的、個人的な喜びを重視する文化が花開きました。フランス宮廷を中心に、贅沢と優雅さを競うような社会気運がロココ様式の発展を促しました。

この様式の隆盛は、当時の社会が享受していた平和と繁栄、そして新たな貴族階級の台頭と密接に関連しています。新しい貴族やブルジョワジーは、自らの地位を確立し、示すために芸術を利用しました。ロココ様式は、このような社会のニーズに応える形で、私的な空間の装飾や娯楽を豊かにする方向へと進化しました。

主要な芸術家には、フランソワ・ブーシェやジャン・オノレ・フラゴナールがいます。彼らの作品は、ロココの精神を鮮やかに表現し、当時の社会背景と繊細な感性を融合させています。1780年頃、新古典主義の台頭と共にロココ様式は衰退し始めましたが、その影響は、装飾芸術や建築デザインにおいて今日まで続いています。ロココは、単なる美術様式を超え、18世紀ヨーロッパの社会や文化の変化を反映する重要な指標となっているのです。

代表的なアーティスト

フランソワ・ブーシェ (1703-1770)
代表作: 「ポンパドゥール夫人の肖像」
表現の概要: 豊かな色彩と官能的なテーマで宮廷の装飾性を強調。

ジャン・アントワーヌ・ヴァトー (1684-1721)
代表作: 「シテール島への巡礼」
表現の概要: 宮廷の遊び心と軽やかなロマンスを描く。

ジャン=オノレ・フラゴナール (1732-1806)
代表作: 「ぶらんこ」
表現の概要: 劇的な光と動きを使った官能的なシーン。

ロザリンバ・カリエーラ (1675-1757)
代表作: 「自画像」
表現の概要: 繊細なパステルで女性のやわらかさを表現。

マリウス・クアンタン・ド・ラ・トゥール (1704-1788)
代表作: 「ヴォルテールの肖像」
表現の概要: 生き生きとした表情とリアルなテクスチャー。トーマス・シャッペル (1699-1777)
代表作: シャッペルスタイルの家具
表現の概要: 装飾的で精巧なロココ様式の家具。

ネオクラシシズム(Neoclassicism): 年代: 約1750-1830

ネオクラシシズムとは

ネオクラシシズムは、18世紀後半から19世紀初頭にかけてヨーロッパで花開いた美術および建築の様式です。この流派は、古典古代の美術・文化への回帰を特徴とし、理性と秩序、調和の価値を重んじました。ネオクラシシズムの作品は、クリアな線、均衡取れた構成、抑制された表現が特徴で、古代ギリシャ・ローマの美を現代に蘇らせることを目指しました。この時代の美術は、啓蒙思想に影響され、感情よりも理性を重視する傾向がありました。こうした背景から、ネオクラシシズムは芸術だけでなく、社会全体における理想とされる秩序と美の追求を象徴しています。

ネオクラシシズムの歴史と社会背景

ネオクラシシズムの潮流は、1750年頃に始まり、フランス革命やナポレオン時代を経て1830年頃まで続きました。この動きは、古代ローマやギリシャの考古学的発見に触発されたもので、それらの発見が啓蒙思想と相まって、新たな芸術の方向性を生み出しました。ジャック=ルイ・ダヴィッドやジャン=オーギュスト=ドミニク・アングルなどの画家たちは、ネオクラシシズムの理念を体現する作品を多数残しました。彼らの作品は、形式の厳格さ、情感の抑制、そして歴史や神話を題材にした内容で知られています。

この時代の社会背景は、アメリカ独立戦争やフランス革命など、大きな政治的変革によって特徴づけられます。これらの出来事は、人々に自由や民主主義、平等といった理念を強く意識させ、それがネオクラシシズムの芸術にも反映されました。つまり、ネオクラシシズムは、単に古代への憧憬だけでなく、当時の社会・政治的理念を象徴する芸術運動だったのです。

この様式の衰退は、19世紀初頭にロマン主義の台頭とともに始まりました。ロマン主義が感情や個人の表現を重視したのに対し、ネオクラシシズムは理性と公共の理想を表現していたため、時代の変遷と共に徐々に影を潜めていったのです。しかし、その遺産は、後の世代の芸術や建築に大きな影響を与え続けています。ネオクラシシズムは、美術史において理性と秩序の追求を通じて、永続的な影響力を持つ様式として評価されていますね。

代表的なアーティスト

ジャック=ルイ・ダヴィッド (1748-1825)
代表作: 「スパルタのレオニダス」「マラーの死」
表現の概要: 劇的な構成、理想化された形態。

アントナン・ジャン・グロ (1771-1835)
代表作: 「ヤッファのペスト患者を訪れるナポレオン」
表現の概要: 劇的な光と色彩で感情を表現。

ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル (1780-1867)
代表作: 「オダリスクの大きなオダリスク」
表現の概要: 清潔な線と静謐な美。

アントニオ・カノーヴァ (1757-1822)
代表作: 「パオリーナ・ボルゲーゼとしてのヴィーナス勝利」
表現の概要: 滑らかな肌、理想化された形。

ベルテル・トルバルセン (1770-1844)
代表作: 「アレクサンダー大王の入城」
表現の概要: 古典主義の理想を彫刻に反映。

クロード・ニコラ・ルドゥー (1736-1806)
代表作: ソルト作品集、パリのサン・フィリップ・デュ・ルール教会
表現の概要: ネオクラシカル建築の先駆者。

ピエール・フィリップ・ドマイヤール (1728-1799)
代表作: ヴェルサイユ宮殿内装の装飾品
表現の概要: 優雅で緻密な装飾性。

ロマン主義(Romanticism)年代: 約1800-1850

ロマン主義とは

ロマン主義は、19世紀初頭にヨーロッパで興った美術・文学・音楽の潮流です。この時代のアートは、理性や古典主義の秩序から離れ、情熱的で個人的な感情の表現に重きを置きました。ロマン主義の作品は、自然の壮大さや人間の内面世界、歴史や神話への興味を特徴とし、しばしば激しい感情や想像力を刺激する題材が選ばれました。この潮流は、個人の自由や創造性を重んじる啓蒙思想の影響を受けつつ、産業革命による社会変化への反応としても理解されます。ロマン主義は、表現の自由と個の感情の深淵を探求することで、後の多くの芸術運動に影響を与えました。

ロマン主義の歴史と社会背景

ロマン主義の時代は、大きく世界が変わり始めた約1800年から1850年頃にかけての期間を指します。この時代、ヨーロッパではフランス革命やナポレオン戦争が起こり、政治的・社会的な大変動がありました。これらの出来事は、人々の自己認識や世界観に大きな影響を与え、アートにおいても個人の情熱や内面的な体験を重視する傾向を強めました。

ロマン主義のアーティストたちは、自然の力と美しさ、そしてそれに対する人間の感情を重要なテーマとして取り上げました。たとえば、カスパー・ダーヴィト・フリードリヒやJ.M.W.ターナーのような画家たちは、自然の壮大さを捉え、その中に人間の感情や精神を投影しました。また、この時代には、国家や民族のアイデンティティを反映した作品も多く生まれ、文学や音楽においても、ロマン主義は強い影響力を持ちました。

ロマン主義は、個人の感情や想像力を最も重要な創作の源泉と見なし、それまでの芸術潮流とは異なる新たな方向性を示しました。この運動は、現実世界の向こうにある理想や夢を追求することをアーティストに許し、感情を通じて真実を探求する道を開いたのです。それは、今日においても私たちが芸術に求めるものの一部であり、ロマン主義の精神は現代の多くの作品にも息づいていますね。

代表的なアーティスト

エウジェーヌ・ドラクロワ (1798-1863)
代表作: 「民衆を導く自由の女神」
表現の概要: 激動の歴史的瞬間と感情の激しさを描く。

フランシスコ・デ・ゴヤ (1746-1828)
代表作: 「1808年5月3日の銃殺」
表現の概要: 暗く、厳しい現実を捉えた作品。

テオドール・ジェリコー (1791-1824)
代表作: 「メデューズ号の筏」
表現の概要: 人間の苦悩と闘争を強烈に描いた。

ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル (1780-1867)
代表作: 「ルイ=フィリップ王の肖像」
表現の概要: 精密な描写と滑らかな仕上がり。

ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー (1775-1851)
代表作: 自身の肖像画
表現の概要: 光と色彩の革新的な使用。

カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ (1774-1840)
代表作: 「アルテンシュタット修道院の墓地」
表現の概要: 精神性と自然の静謐な関係。

ジョン・コンスタブル (1776-1837)
代表作: 「ヘイワエン」
表現の概要: 日常的なイギリスの風景の詩的表現。

東洋主義(Orientalism)年代: 約1800-1900

東洋主義とは

東洋主義は、19世紀にヨーロッパで盛んになった美術の動向で、西洋の画家たちが中東やアジアの文化、風景、人々を題材にした作品を多く生み出しました。この時期、ヨーロッパの帝国主義の拡大と共に、異国情緒を求める欲望が高まり、それが美術において「東洋」という異文化の魅力的な描写へと反映されたのです。東洋主義の作品は、細部にわたる装飾性、鮮やかな色彩、そして幻想的な雰囲気が特徴で、しばしば西洋人の目を通して理想化された「東」のイメージを描き出しました。これらの作品は、西洋における東洋の理解を深めると同時に、文化的ステレオタイプを形成する一因ともなりました。

東洋主義の歴史と社会背景

東洋主義は、1800年から1900年にかけて、ナポレオンのエジプト遠征(1798-1801)に始まる西洋の東方への関心が高まったことに端を発します。この遠征は、その後の西洋の学者、画家、作家たちによる中東への興味を刺激しました。19世紀に入ると、ヨーロッパの植民地主義の拡大と共に、東洋への旅行がより一般的になり、多くのアーティストが直接中東やアジアを訪れ、その経験を基に作品を制作しました。

エウジェーヌ・ドラクロワやジャン=レオン・ジェロームなどの画家たちは、東洋の人々の日常生活、宗教的な儀式、壮麗な風景を題材に、西洋人にはなじみの薄い「異国の世界」を描きました。これらの作品は、当時のヨーロッパ人にとって新鮮で魅力的なものであり、東洋に対する憧れや好奇心をかき立てるものでした。しかし、これらの描写はしばしば西洋の視点からの解釈であり、実際の東洋の文化や生活を正確に反映しているわけではなかったこともあります。

東洋主義の芸術運動は、文化や社会に対する理解を深めるきっかけを提供する一方で、東洋を理想化し、時には誤解を生む原因ともなりました。この動向は、異文化交流の歴史の中で重要な位置を占め、現代においてもその影響は多方面にわたっています。東洋主義の作品群は、文化的な視点の多様性と、異文化に対する認識の複雑さを私たちに教えてくれますね。

代表的なアーティスト

ジャン=レオン・ジェローム (1824-1904)
代表作: 「蛇の呪い師」
表現の概要: 中東の風俗と情景を詳細に描写。

ジャン=オーギュスト・ドミニク・アングル (1780-1867)
代表作: 「ルイ14世のバス」
表現の概要: 東洋の影響を受けた緻密で静かな美。

エティエンヌ・デュレ (1808-1889)
代表作: 「スモークルーム」
表現の概要: 東洋の生活をロマンティックに描く。

フレデリック・ルイストン (1836-1919)
代表作: 「ナイル川の日没」
表現の概要: 神秘的な東洋風景をドラマチックに表現。

バルビゾン派(Barbizon School)年代: 約1830-1870

バルビゾン派とは

バルビゾン派は、19世紀中頃にフランスのバルビゾン村を中心に活動した画家たちのグループです。この派閥のアーティストたちは、自然を直接観察し、そのままを忠実に描写することを目指しました。彼らはアトリエの中で創作する従来の方法から離れ、屋外で絵を描く「プレナール(屋外制作)」を実践しました。バルビゾン派の作品は、細部にわたる自然の観察、光と影の delicateな扱い、そして風景に込められた感情の表現が特徴です。彼らは風景画を一つの独立したジャンルとして確立し、後の印象派に大きな影響を与えました。

バルビゾン派の歴史と社会背景

バルビゾン派の誕生は、1830年代にさかのぼります。この時期、フランスでは産業革命が進行中で、都市化とそれに伴う自然環境の変化が進んでいました。そんな中、一部の画家たちは都市の喧騒を離れ、パリ近郊のフォンテーヌブローの森にあるバルビゾン村へと集いました。彼らは、変わりゆく自然環境への反応として、自然そのものの美しさや、人間と自然との関わりを描くことに注力しました。

テオドール・ルソーやジャン=フランソワ・ミレーなど、バルビゾン派に属する画家たちは、農村生活の風景や労働する人々の姿を題材に、自然と人間との調和のとれた関係を描き出しました。彼らの作品は、単なる風景の描写を超え、当時の社会や文化に対する深い洞察を反映しています。

この運動は、約40年間にわたりフランスの美術界に影響を及ぼし、風景画の地位を高めるとともに、後の芸術運動、特に印象派への道を開いたのです。バルビゾン派のアーティストたちは、自然を対象とした真摯なアプローチと、それを通じて表現される深い感情によって、今日でも多くの人々に感銘を与えています。この運動は、自然への新たな視点を提供し、現代における風景画の基礎を築きました。

代表的なアーティスト

カミーユ・コロー (1796-1875)
代表作: 「フォンテーヌブローの森」
表現の概要: 自然の静寂と調和の追求。

テオドール・ルソー (1812-1867)
代表作: 「バルビゾンの大きなオーク」
表現の概要: 自然の力強さと細部への注意。

ナルシス・ディアズ・デ・ラ・ペーニャ (1807-1876)
代表作: 「森の中の鹿」
表現の概要: 彩度の高い色彩と光の効果。

ジャン=フランソワ・ミレー (1814-1875)
代表作: 「種をまく人」、「晩鐘」、「落穂拾い」
表現の概要: 農民の厳しい生活を慈愛と尊厳で描く。

空想社会主義(Utopian Socialism)年代: 約1830-1890

空想社会主義とは

空想社会主義は、19世紀前半から後半にかけてヨーロッパで生まれた思想および美術運動です。この運動は、産業革命による社会の変化と不平等に対する批判的な反応として現れました。空想社会主義者たちは、理想化された社会のビジョンを通じて、平等、正義、共同体の価値を追求しました。美術においては、これらの理想を象徴する作品が多く制作され、理想的な社会や人間関係を描いたものが特徴です。この運動は、後の現実社会主義やアナキズム、さらには印象派などの芸術運動にも影響を与えました。

空想社会主義の歴史と社会背景

空想社会主義の時代背景は、工業化による労働者階級の貧困化と社会的不平等の拡大にあります。約1830年から1890年にかけてのヨーロッパでは、多くの知識人や芸術家が、資本主義社会の構造的な問題に対して、異なる解決策を模索し始めました。シャルル・フーリエ、ロバート・オーウェン、エティエンヌ・カベなどの思想家は、共同生活や共有財産に基づくコミュニティの設立を提唱し、それらの理想を具現化しようとしました。

美術においては、この運動はしばしば風景画や日常生活のシーンを通じて、より公正で平和な社会のビジョンを提示しました。画家たちは、自然との調和、人間相互の平等な関係、労働の尊厳などをテーマに、理想的な世界を描き出しました。これらの作品は、視覚的な美しさだけでなく、社会的なメッセージを持つことが多く、観る者に思索を促します。

この時代の変化と共に、空想社会主義は徐々に影を潜め、より実践的な社会主義の運動に道を譲りましたが、その理想とビジョンは後世の多くの社会改革運動や芸術運動に影響を与え続けています。空想社会主義は、不平等や不正に対する挑戦として、また、より良い世界への希望として、今日でもその意義を持ち続けています。

代表的なアーティスト

ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー (J.M.W. Turner)
生年・没年: 1775年 – 1851年
代表作: 『蒸気船に続くテムズ川の風景』
表現の概要: 産業革命の影響を強烈な色彩で表現。

オノレ・ドーミエ (Honoré Daumier)
生年・没年: 1808年 – 1879年
代表作: 『第三等室の客』
表現の概要: 当時の社会階級と不平等を風刺的に描写。

ガスパール・フリードリッヒ (Caspar David Friedrich)
生年・没年: 1774年 – 1840年
代表作: 『独りぼっちの人』
表現の概要: 人間と自然の調和を求めるユートピア的風景。

ウィリアム・モリス (William Morris)
生年・没年: 1834年 – 1896年
代表作: 『ストロベリー・シーフデザイン』
表現の概要: 芸術と職人技の平等な価値を提唱。

フレデリック・レイトン (Frederic Leighton)
生年・没年: 1830年 – 1896年
代表作: 『フラミニア』
表現の概要: 古典的美を通じた理想社会の描写。

リアリズム/現実主義(Realism)年代: 1840-1880年頃

リアリズムとは

リアリズムは、19世紀中頃から後半にかけてヨーロッパで発展した美術および文学の運動です。この運動の核心は、「現実のありのまま」を描くことにありました。リアリズムのアーティストたちは、理想化された主題や美化された表現を避け、当時の社会、特に労働者階級の日常生活、社会問題、風俗を正直かつ直接的に描写しました。彼らは、美術の題材としての「貴族や神話の世界」から「一般市民の生活」へと視点を転換し、社会的リアリズムを追求しました。このアプローチは、美術だけでなく、文学や演劇にも影響を及ぼし、後の自然主義や社会主義リアリズムへと繋がっていきました。

リアリズムの歴史と社会背景

リアリズム運動は、1840年代にフランスで始まり、ヨーロッパ各地に広がりました。この時期は、産業革命が進行中であり、都市化、労働者階級の成長、政治的動乱など、社会が大きな変化を遂げていました。リアリズムのアーティストたちは、これらの変化に対する反応として、社会の不平等や矛盾に光を当て、人々の目を現実に向けさせようとしました。

代表的なリアリストには、ギュスターヴ・クールベ、ジャン=フランソワ・ミレー、オノレ・ドーミエなどがいます。クールベの「石割り」やミレーの「落ち穂拾い」といった作品は、農民の厳しい労働条件や生活を描き出し、当時の社会に衝撃を与えました。これらの作品は、観る者に社会的な共感を促し、芸術における新たな現実の表現を確立しました。

リアリズムは、芸術を通じて社会に影響を与えることができるという信念のもとに、美術の新しい方向性を示しました。この運動は、人間と社会のリアルな描写を重視し、芸術の主題としての「普遍的な人間性」を探求することで、後の多くの芸術運動に道を開いたのです。リアリズムは、現代においても、我々が世界をどのように理解し、表現するかについて、深い洞察を提供していますね。

代表的なアーティスト

ジャン=フランソワ・ミレー (Jean-François Millet)
生年・没年: 1814年 – 1875年
代表作: 『晩鐘』
表現の概要: 農民の日常生活を温かく描いた作品。

ギュスターヴ・クールベ (Gustave Courbet)
生年・没年: 1819年 – 1877年
代表作: 『石割り』
表現の概要: 労働者階級の過酷な労働をリアルに描写。

オノレ・ドーミエ (Honoré Daumier)
生年・没年: 1808年 – 1879年
代表作: 『法廷の風景』
表現の概要: 当時の社会や政治に対する風刺的な批評。

カミーユ・ピサロ (Camille Pissarro)
生年・没年: 1830年 – 1903年
代表作: 『ルーヴシエンヌ通り、雨の日』
表現の概要: 進化する都市の風景と日常の活動を描く。

ジュール・バスティアン=ルパージュ (Jules Bastien-Lepage)
生年・没年: 1848年 – 1884年
代表作: 『ジャンヌ・ダルク』
表現の概要: 自然な光と色彩で田園生活を描く。

ラファエル前派(Pre-Raphaelite Brotherhood)年代: 1848-1850年代

ラファエル前派とは

ラファエル前派は、1848年にイギリスで結成された芸術家の集団です。彼らは、ラファエロ前(Pre-Raphaelite)の純粋で詳細な表現を尊重し、産業革命によってもたらされた機械的な製作方法や、当時主流だったアカデミックな美術の様式に反対しました。ラファエル前派のメンバーたちは、自然の真実を忠実に描写し、聖書や中世の物語、古典文学からインスピレーションを得た作品を多く残しました。彼らの作品は、鮮やかな色彩、細部への注意、象徴的な要素が特徴であり、視覚芸術のみならず、文学や詩にも大きな影響を与えました。

ラファエル前派の歴史と社会背景

ラファエル前派の成立は、19世紀中盤のイギリスが直面していた社会的、文化的な変化の中で起こりました。産業革命の影響で社会に広がる機械化と都市化に対する反応として、彼らはより人間的で霊的な価値を芸術に求めました。彼らは、当時の美術教育と美術界が推進する様式から脱却し、芸術の原点に立ち返ることを目指しました。ウィリアム・ホルマン・ハント、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ、ジョン・エヴァレット・ミレイなどが主要メンバーであり、彼らは美術だけでなく、社会に対しても積極的なメッセージを発信し続けました。

ラファエル前派のアーティストたちは、現実逃避ではなく、より深い社会への洞察と、個人の内面世界への探求を通じて、時代に対する批判的な視点を提示しました。この運動は、美術のみならず、当時の文化全般に新たな視点をもたらし、後の芸術運動にも大きな影響を与えることとなりました。

ラファエル前派は、その独自の美学と社会に対する姿勢によって、現在も多くの人々に影響を与え続けています。彼らの追求した美の理想は、現代においても新鮮さを失っていません。ラファエル前派の作品は、美術を通じてより良い社会を夢見たアーティストたちの情熱とビジョンを伝えていますね。

代表的なアーティスト

ダンテ・ガブリエル・ロセッティ (Dante Gabriel Rossetti)
生年・没年: 1828年 – 1882年
代表作: 『ベアタ・ベアトリクス』
表現の概要: 中世の象徴的な美女をロマンティックに描写。

エドワード・バーン=ジョーンズ (Edward Burne-Jones)
生年・没年: 1833年 – 1898年
代表作: 『ブリーゼの夜』
表現の概要: 古代神話と伝説を緻密で情緒的なスタイルで表現。

ウィリアム・ホルマン・ハント (William Holman Hunt)
生年・没年: 1827年 – 1910年
代表作: 『光の世界』
表現の概要: 宗教的な象徴と寓意を複雑なイメージで描写。

ジョン・エヴァレット・ミレー (John Everett Millais)
生年・没年: 1829年 – 1896年
代表作: 『オフィーリア』
表現の概要: 自然の美しさと詳細を忠実に再現。

フォード・マドックス・ブラウン (Ford Madox Brown)
生年・没年: 1821年 – 1893年
代表作: 『最後の旅』
表現の概要: 緻密なディテールと鮮やかな色彩で情景を描く。

印象派(Impressionism「インプレッショニズム」)年代: 約1860-1890

印象派とは

印象派は、19世紀後半のフランスで発展した芸術運動です。この運動は、アーティストたちが瞬間的な光の効果や色彩、日常生活の風景を捉えようとしたことに特徴があります。印象派の画家たちは、スタジオの外に出て自然光の下で絵を描くことを好み、「プレナール(屋外制作)」と呼ばれる方法を積極的に採用しました。彼らは、細かいディテールよりも全体の印象を大切にし、筆触をはっきりと残すことで動きや光の変化を表現しました。このアプローチは、当時の伝統的な美術観からは大きく逸脱しており、初期には批判も多かったですが、やがて新しい美術の方向性を示すものとして広く受け入れられるようになりました。

印象派の歴史と社会背景

印象派の誕生は、1860年代のパリを中心に展開しました。この時期、都市化や産業革命が進む中で、都市の風景や市民生活が大きく変化していきました。これらの変化は、アーティストたちに新たな表現の可能性を示唆しました。クロード・モネ、エドガー・ドガ、ピエール=オーギュスト・ルノワール、カミーユ・ピサロといった画家たちは、それまでの芸術の枠を超え、光と影、空気の動き、水の反射といった自然現象を捉えることに注力しました。

1874年に最初の印象派展が開催されたことが、この運動の始まりとされています。クロード・モネの「印象、日の出」が、この運動に名前を与えることになりました。印象派のアーティストたちは、それぞれ独自のスタイルで自然や人々の生活を描き、視覚芸術に新たな風を吹き込みました。

印象派は、美術だけでなく、後の文学や音楽にも影響を与えるなど、広範な文化的影響を持つ運動となりました。この運動は、現代美術への道を開く重要な一歩となり、アーティストたちが直面する現実世界と自らの感性をどのように芸術作品に昇華させるかという問題に、新たな解答を提示しました。印象派は、その後も多くの人々に愛され続ける美術運動として、今日でもその魅力を放ち続けていますね。

代表的なアーティスト

カミーユ・ピサロ (1830-1903)
代表作: 「ルーヴシエンヌ通りの雨の効果」
表現の概要: 都会の瞬間、動き。

エドガー・ドガ (1834-1917)
代表作: 「オペラ座の舞踏教師」
表現の概要: 都市生活、ダイナミズム。

エドゥアール・マネ (1832-1883)
代表作: 「オランピア」
表現の概要: 都市生活、革新的。

クロード・モネ (1840-1926)
代表作: 「印象、日の出」、「睡蓮」シリーズ
表現の概要: 光と色、時刻の変化。水面、反射の魅力。

ピエール=オーギュスト・ルノワール (1841-1919)
代表作: 「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」
表現の概要: 光の遊戯、生き生きとした肖像。

アルフレッド・シスレー (1839-1899)
代表作: 「サント=マメスの洪水」
表現の概要: 光の清潔感、自然の親密さ。

ベルト・モリゾ (1841-1895)
代表作: 「クレーヴの牧草地」
表現の概要: 屋外の女性、自由な空気。

新印象派(ポスト印象派)/点描主義(Neo-Impressionism/Pointillism)、年代: 約1886-1900

新印象派(ポスト印象派)/点描主義とは

新印象派、または点描主義は、1886年にフランスで始まった美術運動です。印象派の自由な筆触と明るい色彩を受け継ぎながら、より科学的な色彩理論に基づく方法を取り入れたのが特徴です。この運動の中心人物であるジョルジュ・スーラとポール・シニャックは、小さな色点を並べることで、光の効果や色彩の鮮やかさを追求しました。彼らは、視覚的な混合を利用して、遠くから見ると単一の色に見える細かい点をキャンバスに描きました。この技法は「点描法」と呼ばれ、新印象派の代名詞ともなっています。

新印象派(ポスト印象派)/点描主義の歴史と社会背景

新印象派/点描主義は、印象派が確立させた美術の新しい方向性をさらに発展させたものです。1880年代のフランスは、科学的発見が盛んな時代であり、光や色彩に関する研究が美術にも影響を与えました。スーラとシニャックは、色彩理論を研究し、それを実践することで、光の揺らぎや空気の質感を再現しようと試みました。彼らの作品は、科学と芸術の融合を目指し、それまでの印象派の直感的な表現方法に、より計算されたアプローチを加えたものでした。

新印象派のアーティストたちは、自然界の光景だけでなく、都市生活や人々の様子も描きました。彼らの作品は、当時の社会や文化の変化を反映していると同時に、色彩と光に対する深い洞察を示しています。この運動は、20世紀初頭のさまざまな芸術運動、特にフォーヴィズムやキュビズムへの道を開いたとされています。

新印象派/点描主義は、美術の歴史において、印象派の自然主義的な描写とモダニズムの先駆けとなる抽象表現との間を結ぶ重要な橋渡し役となりました。この運動は、アーティストが視覚の捉え方と色彩の理解を深め、新たな表現の可能性を探るきっかけを提供しました。新印象派/点描主義のアーティストたちは、彼らの独創的な技法と科学的なアプローチを通じて、美術の新たな地平を開いたのです。

代表的なアーティスト

ジョルジュ・スーラ (Georges Seurat)
生年・没年: 1859年 – 1891年
代表作: 『アン・ディマンシュ・ア・ラ・グランド・ジャット』
表現の概要: 細かな色点で光と影を表現。

ポール・シニャック (Paul Signac)
生年・没年: 1863年 – 1935年
代表作: 『アントゥイーユの港』
表現の概要: 明るい色彩と点描技法で風景を描く。

カミーユ・ピサロ (Camille Pissarro)
生年・没年: 1830年 – 1903年
代表作: 『リュエイユの市場』
表現の概要: 光の変化を細かい点で捉える。

アンリ=エドモン・クロス (Henri-Edmond Cross)
生年・没年: 1856年 – 1910年
代表作: 『水浴』
表現の概要: 点描法で光と色の微妙な変化を描く。

マックス・リーバーマン (Max Liebermann)
生年・没年: 1847年 – 1935年
代表作: 『ビールガーデン・アット・アルテン・テイヒ』
表現の概要: 点描を用いて視覚的な錯覚を生み出す。

ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ (Vincent van Gogh)
生年・没年: 1853年 – 1890年
代表作: 『星月夜』
表現の概要: 強烈な色彩と動的な筆触で自然を表現。

ポール・ゴーギャン (Paul Gauguin)
生年・没年: 1848年 – 1903年
代表作: 『タヒチの女たち』
表現の概要: 原始的な美とエキゾチックな風景を通じて、西洋文化と異文化の融合を試みた作品。

ポール・セザンヌ (Paul Cézanne)
生年・没年: 1839年 – 1906年
代表作: 『サント・ヴィクトワール山』
表現の概要: 形と色の構成を通じて自然の本質を捉える。セザンヌは新印象派には直接属さないものの、彼の作品は色彩と形の解析により、後のキュビズムや現代美術に大きな影響を与えました。

シンボリズム/象徴主義(Symbolism)年代: 約1880-1910

アルノルト・ベックリン, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で
アルノルト・ベックリン 死の島
Public domain, via Wikimedia Commons

シンボリズムとは

シンボリズム/象徴主義は、19世紀末から20世紀初頭にかけてヨーロッパで展開した美術および文学の運動です。この運動は、現実を直接描写するのではなく、象徴やメタファーを用いて、内面世界や精神的な真実を探求しました。シンボリズムのアーティストたちは、夢や神話、宗教、幻想を題材にし、見えない力や感情を視覚化することに重点を置きました。彼らは、形而上的なテーマや個人の潜在意識に焦点を当て、視覚芸術における新たな表現領域を開拓しました。

シンボリズム/象徴主義の歴史と社会背景

シンボリズムの誕生は、産業革命による急速な社会変化と、それに伴う精神的な危機感の中で起こりました。科学と理性が重んじられる時代に対する反動として、シンボリストたちは精神的な価値や内面世界の深淵を探ることに関心を寄せました。彼らは、単なる現実の再現を超えて、人間の内面や宇宙の神秘を言葉やイメージで捉えようとしました。

この運動には、ギュスターヴ・モロー、オディロン・ルドン、フェルナン・クノップフ、ジャン・デルヴィルといった多くの画家が関わっており、彼らの作品は、色彩、形、線の革新的な使用を通じて、視覚芸術の新しい可能性を示しました。シンボリズムは、後の表現主義やサレアリスムなど20世紀の芸術運動にも大きな影響を与えました。

シンボリズムは、美術だけでなく、詩や文学においても重要な役割を果たし、ステファヌ・マラルメやポール・ヴェルレーヌといった詩人たちは、言葉を用いて同様のテーマを探求しました。この運動は、見えない世界への橋渡しとして、また、芸術による内面表現の豊かさを提示することで、現代美術における重要な足跡を残しています。シンボリズムは、表面的な現実を超えた深い理解と、人間精神の複雑さを美術と文学によって探る試みであり、今日でもその魅力と影響は色褪せていません。

代表的なアーティスト

エドヴァルド・ムンク (Edvard Munch)
生年・没年: 1863年 – 1944年
代表作: 『叫び』
表現の概要: 内面の不安と孤独感を強烈に表現。

オディロン・ルドン (Odilon Redon)
生年・没年: 1840年 – 1916年
代表作: 『キュクロープス』
表現の概要: 幻想的で夢のようなイメージを描く。

グスタフ・モロー (Gustave Moreau)
生年・没年: 1826年 – 1898年
代表作: 『サロメ』
表現の概要: 神話と神秘主義を組み合わせた作品。

フェルナン・クノップフ (Fernand Khnopff)
生年・没年: 1858年 – 1921年
代表作: 『静寂』
表現の概要: 夢と現実の融合を象徴的に描く。

アルノルト・ベックリン, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で

アルノルト・ベックリン (Arnold Böcklin)
生年・没年: 1827年 – 1901年
代表作: 『死の島』
表現の概要: 幻想的な風景で超現実的な世界を描く。
Public domain, via Wikimedia Commons

グスタフ・クリムト (Gustav Klimt)
生年・没年: 1862年 – 1918年
代表作: 『接吻』
表現の概要: 豊かな装飾性と官能的なテーマで、深い感情と神秘性を表現。

唯美主義(Aestheticism)年代: 約1860-1900

唯美主義とは

唯美主義は、19世紀後半にイギリスを中心に展開した美術および文学の運動です。「芸術のための芸術」をモットーに、美学的価値を最も重要なものとして追求しました。この運動は、社会的・道徳的なメッセージを持つ芸術作品よりも、純粋な美を表現することを目指しました。唯美主義のアーティストや作家たちは、装飾的で繊細なスタイルを好み、夢や幻想、官能をテーマにした作品を多く残しました。

唯美主義の歴史と社会背景

唯美主義運動は、産業革命による急激な社会の変化と、それに伴う美術と文学における表現の模索から生まれました。この時代には、芸術を通じて社会改革を試みるリアリズムや、象徴主義などの運動もありましたが、唯美主義はそれらとは異なり、美の追求を絶対的な価値としました。オスカー・ワイルドやジェームズ・マクニール・ホイッスラーなど、この運動に関わった人物たちは、芸術作品における形式と美の完璧さを重んじ、それを生活のあらゆる面に取り入れることを提唱しました。

特に、ワイルドは「芸術のための芸術」という概念を広める上で中心的な役割を果たし、彼の著作や生き方は唯美主義の理念を象徴するものとなりました。また、ホイッスラーの絵画は、形式美と色彩の調和に重点を置いた作品で知られています。彼らの作品は、視覚的な美しさと感性を重視し、観る者に深い美的体験を提供します。

唯美主義は、ビクトリア朝の厳格な道徳観とは対照的な、自由な美意識と個人主義を反映しています。この運動は、後のモダニズム芸術にも影響を与え、美術および文学における表現の自由と多様性を広げる一翼を担いました。唯美主義は、芸術が持つ純粋な美と感覚的な魅力を再評価し、それを通じて人々の心を豊かにすることを目指した運動であり、今日でもその精神は多くのクリエイターに受け継がれています。

代表的なアーティスト

ジェームズ・マクニール・ホイッスラー (James McNeill Whistler)
生年・没年: 1834年 – 1903年
代表作: 『アレンジメント・イン・グレイ・アンド・ブラック第1号』
表現の概要: 色彩と構図の調和に重点を置いた作品。

オーブリー・ビアズリー (Aubrey Beardsley)
生年・没年: 1872年 – 1898年
代表作: 『サロメ』の挿絵
表現の概要: 線の美しさとエロティックなイメージ。

ガストン・ラシュー (Gaston LaChaise)
生年・没年: 1882年 – 1935年
代表作: 彫刻作品
表現の概要: 象徴的な姿で肉体の美を表現。

グスタフ・クリムト (Gustav Klimt)
生年・没年: 1862年 – 1918年
代表作: 『接吻』
表現の概要: 象徴的な色使いと装飾的なスタイル。

オスカー・ワイルド (Oscar Wilde)
生年・没年: 1854年 – 1900年
代表作: 『ドリアン・グレイの肖像』
表現の概要: 社会の道徳観への挑戦。

ナビ派(Nabis)年代: 1890-1900年頃

ナビ派とは

ナビ派は、1890年代にフランスで活動した芸術家のグループで、ポール・セラン、ピエール・ボナール、エドゥアール・ヴュイヤール、モーリス・ドニなどがメンバーでした。ナビ派という名前はヘブライ語の「預言者」を意味し、彼らは美術における新しい道を開拓しようとする意志を持っていました。このグループは、印象派の自然主義的な表現から離れ、より象徴的で装飾的なスタイルを追求しました。ナビ派のアーティストたちは、色彩と形の単純化、平面的な構成を用いて、内面世界や夢のような風景を表現しました。彼らの作品は、しばしば日常生活の一瞬を捉えつつ、それに寓意的または詩的な意味を与えることで、観る者の想像力を刺激します。

ナビ派の歴史と社会背景

ナビ派は、19世紀末の芸術の多様化と実験的な探求の中で生まれました。この時期、ヨーロッパでは象徴主義やアール・ヌーヴォーなど、伝統的な芸術観に挑戦する多くの運動が出現していました。ナビ派のアーティストたちは、これらの運動に影響を受けつつも、独自の芸術哲学を展開しました。彼らは、芸術作品が持つ装飾的な価値と、視覚的な語彙を通じて感情や思想を伝える能力を重視しました。

また、ナビ派のアーティストたちは、版画や書籍の挿絵、家具やテキスタイルのデザインなど、絵画以外の分野にも積極的に取り組み、芸術を日常生活に取り入れることを目指しました。このようにして、彼らは美術だけでなく、当時のデザインや装飾芸術にも大きな影響を与えました。

ナビ派の運動は、1900年頃には衰退しましたが、彼らの実験的なアプローチと芸術に対する独自の見解は、20世紀初頭のアヴァンギャルド芸術に多大な影響を与えました。ナビ派は、芸術が持つ表現の可能性を拡張し、後の芸術運動への道を開いたと評価されています。

代表的なアーティスト

ポール・セリュジエ (Paul Sérusier)
生年・没年: 1864年 – 1927年
代表作: 『タリスマン』
表現の概要: 色彩と形の象徴的な使用に重点を置いた作品。

ピエール・ボナール (Pierre Bonnard)
生年・没年: 1867年 – 1947年
代表作: 『裸婦の浴室』
表現の概要: 日常の風景を温かい色彩で内面的に表現。

エドゥアール・ヴュイヤール (Édouard Vuillard)
生年・没年: 1868年 – 1940年
代表作: 『インテリア、マザーと姉妹』
表現の概要: 日常的な空間を抽象的な色彩と形で描写。

モーリス・ドニ (Maurice Denis)
生年・没年: 1870年 – 1943年
代表作: 『アプリル』
表現の概要: 鮮やかで革新的な色使いで情緒を表現。カーステン・リーア (Ker-Xavier Roussel)
生年・没年: 1867年 – 1944年
代表作: 『庭園の祭り』
表現の概要: 日本の版画の影響を受けた、自然と人物の描写。

ウィーン分離派(Vienna Secession)年代: 約1897-1905

ウィーン分離派とは

ウィーン分離派は1897年に画家グスタフ・クリムトを中心に結成された芸術運動です。彼らは、伝統的な芸術機関の束縛から脱却し、芸術の自由な表現と革新を目指しました。美術市場からの独立した展覧会を開催することや他国の芸術家との交流を深めることでした。

この運動は、建築、絵画、彫刻、装飾美術など幅広い分野に影響を及ぼし、個々の芸術家の創造性を重んじる姿勢が特徴です。ウィーン分離派の作品は、装飾的でありながらも機能的なデザインを追求し、自然主義的なモチーフと幾何学的な形態を組み合わせた独特のスタイルを展開しました。

ウィーン分離派は象徴主義の一部を構成

ウィーン分離派は象徴主義の一派であり、象徴主義の影響を受けながらも、独自の芸術スタイルを追求しました。唯美主義と象徴主義は関連がありますが、作品の趣向やスタイルは異なります。ラファエル前派が重要な転換点であるとされ、ジョージ・フレデリックの作品などがその典型例です。

ウィーン分離派の歴史

ウィーン分離派は、1897年にグスタフ・クリムト、ヨーゼフ・マリア・オルブラック、コロマン・モーザーなどの芸術家によって設立されました。彼らは、当時の芸術界における保守的な態度に反発し、より自由な芸術表現の場を求めていました。

分離派は、その名の通り、既存の芸術協会から分離し、新しい芸術の理念と表現形式を追求することを目的としました。彼らは、1898年にヨーゼフ・ホフマンが設計した分離派館を建設し、そこを中心に展覧会を開催しました。これらの展覧会では、国内外の革新的な芸術家たちの作品が紹介され、ウィーン分離派は国際的な注目を集めるようになりました。

ウィーン分離派の活動は、1905年頃にはグループ内の意見の相違により衰退し始めましたが、その精神はその後のアール・ヌーヴォーやアール・デコ、さらには現代美術にも受け継がれているのです。ウィーン分離派は、芸術における個人の自由と革新の重要性を強調し、20世紀初頭の芸術変革の先駆けとなりました。

代表的なアーティスト

グスタフ・クリムト (1862-1918)
代表作: 「接吻」
表現の概要: 感性的で装飾的な表現を特徴とし、象徴主義とエロティシズムを融合させた作品。

オスカー・ココシュカ (1886-1980)
代表作: 「風の花嫁」
表現の概要: 強烈な感情表現を特徴とする作品で、表現主義の初期に位置づけられる。

エゴン・シーレ (1890-1918)
代表作: 「自画像」
表現の概要: 曲線的で表現力豊かな造形を通じて、内面の葛藤や性的な緊張を描いた。

コルマン・モーザー (1868-1918)
代表作: 「F.ホフマンの結婚」
表現の概要: シンボリックで装飾的なスタイルを用い、ウィーン分離派の美術とデザインに貢献。

ヨーゼフ・マリア・オルブラック (1867-1956)
代表作: セセッションビルディング
表現の概要: 新しい建築の象徴とされ、機能と美の統合を追求した建築デザイン。

オットー・ワーグナー (1841-1918)
代表作: ウィーン郵便貯金銀行
表現の概要: 機能主義と装飾美の融合を目指し、近代建築の先駆けとなった。

ヨーゼフ・ホフマン (1870-1956)
代表作: パラッツォ・ストロッツィ
表現の概要: 幾何学的な形態と機能美を重視したデザインで、応用美術に革新をもたらした。

アドルフ・ロース (1870-1933)
代表作: ロースハウス
表現の概要: 無駄を排除した機能的デザインを実践し、モダニズム建築の基礎を築いた。

アール・ヌーヴォー/新芸術運動(Art Nouveau)年代: 約1890-1910

アール・ヌーヴォーとは

アール・ヌーヴォーは、19世紀末から20世紀初頭にかけて、ヨーロッパを中心に広がった美術運動です。アール・ヌーヴォー、その名はフランス語で「新しい芸術」という意味を持ち、この運動は、産業革命によって生じた量産品に対する反発と、個性や自然の美を重んじる考え方から生まれました。この流れは、建築、家具、ジュエリー、ガラス工芸、絵画に至るまで多岐にわたります。特徴的なのは、曲線を用いた植物モチーフや女性の優美な姿、流れるような線が多用されたことです。自然界の形や線をアートに取り入れ、それを都市の生活の中で表現しようとしたのです。

アール・ヌーヴォーの歴史

アール・ヌーヴォー運動は、1880年代後半に起こり、1910年ごろには衰退し始めました。この時期には、世界各地で異なる名称で知られ、フランスでは「アール・ヌーヴォー」、イタリアでは「スティーレ・リベルティ」と呼ばれました。この運動の中心地は、ベルギーのブリュッセルとフランスのパリで、ここから新しい美術の波がヨーロッパ全土に広がりました。アール・ヌーヴォーは、ヴィクトリア朝末期の装飾過多なスタイルからの脱却を試み、よりシンプルで自然を模したデザインへと移行しました。この流派は、ヘクター・ギマール、アルフォンス・ミュシャ、アントニ・ガウディなどの芸術家によって代表されます。彼らの作品は今日でも多くの人々に愛され続けており、アール・ヌーヴォーの魅力を伝える重要な資料となっています。この運動は、後のアール・デコやモダニズムに影響を与えるなど、20世紀初頭の美術に大きな足跡を残しました。

代表的なアーティスト

アントニ・ガウディ (Antoni Gaudí)
生年・没年: 1852年 – 1926年
代表作: 『サグラダ・ファミリア』
表現の概要: 曲線と自然形態を融合した建築デザインで知られる。自然界の形や構造からインスピレーションを得て、独創的なスタイルを創出。

ヴィクトール・オルタ (Victor Horta)
生年・没年: 1861年 – 1947年
代表作: 『ホテル・タッセル』
表現の概要: 曲線的なファサードと装飾を特徴とし、建築におけるアール・ヌーヴォー様式を代表する作品の一つ。

ヘンリー・ヴァン・デ・ヴェルデ (Henry van de Velde)
生年・没年: 1863年 – 1957年
代表作: 『ヴァイマールの芸術学校建築』
表現の概要: 曲線を用いたデザイン構成により、機能と形式の調和を追求した建築及びデザイン作品。

アルフォンス・ミュシャ (Alphonse Mucha)
生年・没年: 1860年 – 1939年
代表作: 『「四季」シリーズ』
表現の概要: 植物をモチーフにした装飾美を特徴とし、独特のスタイルでポスターや広告、装飾品をデザイン。

エミール・ガレ (Émile Gallé)
生年・没年: 1846年 – 1904年
代表作: ガラス工芸品
表現の概要: 自然をモチーフにした繊細なガラス作品で知られ、色彩と光の効果を巧みに利用したデザインが特徴。

ルイス・コンフォート・ティファニー (Louis Comfort Tiffany)
生年・没年: 1848年 – 1933年
代表作: 『ティファニーランプ』
表現の概要: 花や植物をモチーフにしたランプデザインで知られ、ステンドグラスを用いた色彩豊かな作品を多数制作。

ジョン・ラファージ (John La Farge)
生年・没年: 1835年 – 1910年
代表作: ステンドグラス作品
表現の概要: 色彩豊かなステンドグラスで知られ、光と色の効果を駆使した宗教的及び装飾的な作品を多数手がける。

オーブリー・ビアズリー (Aubrey Beardsley)
生年・没年: 1872年 – 1898年
代表作: 『「サロメ」の挿絵』
表現の概要: 線の美しさと装飾性を追求した挿絵で知られ、黒と白のコントラストを活かした独特のスタイルを展開。

チャールズ・レニー・マッキントッシュ (Charles Rennie Mackintosh)
生年・没年: 1868年 – 1928年
代表作: 『グラスゴー・スクール・オブ・アート』
表現の概要: シンプルで機能的なデザインを特徴とし、建築、家具、インテリアデザインにおいて革新的な作品を多数創出。

ジョゼフ・マリア・オルブラック (Josef Maria Olbrich)
生年・没年: 1857年 – 1934年
代表作: 『バトロ邸』
表現の概要: 豊かな装飾と色彩を特徴とするインテリアデザインで知られ、独創的な空間創りに貢献。

プリミティビズム(Primitivism)年代: 1890-1950年頃

プリミティビズムとは

プリミティビズムは、西洋の芸術家たちが、アフリカ、オセアニア、北アメリカの先住民族や他の非西洋文化の芸術形式を取り入れ、それを通じて原始的な力や純粋さを追求した美術運動です。この動きは、複雑化した近代社会に対する憧れから、より単純で素朴な生活や表現に価値を見出すという考えに基づいています。プリミティビズムの作品は、形式の単純化、強い色彩、直感的な構成などが特徴で、西洋美術に新たな視野をもたらしました。この運動は、キュビズムや表現主義など、他の多くの近代芸術運動に影響を与えたのです。

プリミティビズムの歴史

プリミティビズムの興起は、19世紀末から20世紀初頭にかけて、ヨーロッパの芸術家たちが非西洋文化に強く魅了されたことに始まります。特にパブロ・ピカソやアンリ・マティスなどの芸術家は、アフリカの彫刻やマスクから大きなインスピレーションを受けました。これらの芸術家たちは、伝統的な西洋の美術形式から離れ、新たな表現の可能性を模索しました。プリミティビズムは、西洋以外の文化が持つ独自の美的価値を認め、それを自身の作品に取り入れることで、西洋美術の新たな地平を開いたのです。この運動は、人類共通の表現への渇望と、異文化間の対話を促進する重要な役割を果たしました。プリミティビズムは、美術だけでなく、音楽や舞台芸術にも影響を与え、20世紀初頭の芸術全般に大きな変革をもたらしたと言えるでしょう。

代表的なアーティスト

パブロ・ピカソ (1881-1973)
代表作: 「アビニョンの娘たち」
表現の概要: アフリカ彫刻から影響を受けた造形

アンリ・マティス (1869-1954)
代表作: 「踊り」
表現の概要: 非西洋芸術のシンプルさと表現力

コンスタンティン・ブランクーシ (1876-1957)
代表作: 「無限の柱」
表現の概要: 精緻な形態と原始的な感覚

フランツ・マルク (1880-1916)
代表作: 「青い馬」
表現の概要: 動物と自然の霊的な結合

ヘンリー・ルソー (1844-1910)
代表作: 「夢」
表現の概要: 幻想的なジャングルと野生動物

ポール・ゴーギャン (1848-1903)
代表作: 「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」
表現の概要: 神話とトーテムを通じた探求

アンドレ・デラン (1880-1954)
代表作: 「コリウールの漁師」
表現の概要: 鮮やかで直感的な色彩の使用

ヴァシリー・カンディンスキー (1866-1944)
代表作: 「青い騎手」
表現の概要: 色彩を通じた内面世界の表現カズィミール・マレーヴィチ (1879-1935)
代表作: 「黒い正方形」
表現の概要: 最も極端な形の抽象化

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